THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行9 4/10


■オヤジの気遣い

宮田が病欠したのを一番喜んだのは、例によって課のOL3人組だ。

「課長が病欠なんてめずらしー」

「鬼の霍乱っていうやつでしょー」

ちょうど書類をまとめて外出しようとしていた柳が通りかかって言った。

「鬼はオメーらだろ? 仕事もしないで給料もらいやがって!」

「してますよー!」

「何であんた風邪ひかないのよ?! 丸坊主のクセに!!」

柳は眉をひそめて坊主頭を右手でなで上げた。
ひとり黙々と仕事をしている三村が視界に入ったが、声をかけずに事務所を出た。
とくに避けているつもりはなかったが、あれ以来、何となく声をかけづらいのも事実だった。

三村にとっても柳のことは気にならないではなかった。
けれども今の三村には、ほかに気になって仕方ないことがあった。

先日の田舎でのお見合い・・・。
結婚にあこがれがないわけではない。けれど見合い結婚で強引に田舎に戻るのもイヤだと思っていた三村は、どうすればいいのかを宮田にも幾度となく相談していたが。

田舎の両親から電話があったのは夕べのことだ。

「しよりちゃん、ちゃんとゴハン食べてる?」

母の第一声は、いつもこうだ。

「実はね、この間のお見合いの件だけど・・・」

ほら来た!・・・と三村は思った。いつかは結論を出さなければならないことはわかっていた。
母は話を続けた。

「先方さんから連絡があってね、何ていうか・・・」

黙って聞いていると、電話口の向こうから、おっとりした母とは正反対に気の短い父の声がした。

「いい! 俺から話すから!! おう、しより! 元気でやってるか?」

「うん大丈夫。とうさんこそ腰痛はどう?」

「まだ米俵かつぐわけにはいかんがな、ガハハハ、大したことはない。・・・それより、この間の見合いの話なんだが、先方の奴、断ってきやがった。まったくふざけた野郎だ!」

「そ、そう・・・ちょうどよかったわ。私も乗り気じゃなかったし」

「やめろ! やめろ! あんな青二才。人を見る目もない。・・・しより、気にすることはねぇぞ。きっと、こないだの男よりウンといい男見つけてやっから。幸せになって見返してやれ!」

「うん、別に気にしてないから」

とは、言ったものの・・・。
予想しなかった展開に少々戸惑いを感じた三村は、また宮田と2人きりで話がしたくなっていたのだが・・・。


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