THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行9 3/10


■天使の声

「おはようございます。資材調達課、三村です」

そのハツラツとした声を聞いた瞬間、宮田は0.5度ほど熱が下がったような気がした。

「おはよう、宮田だ」

「課長?! おはようございます。・・・どうなさったんですか?」

「実は、ちょっと風邪をひいてしまったようで・・・熱があるんだ」

「えっ? 大丈夫ですか?」

「そんな大げさなもんじゃないんだが、そういうワケで、今日は休ませてもらおうと思ってね。懸案事項はとくにないと思うが、もし何かあったら面倒でも自宅に連絡をもらえるように課の連中に伝えてもらえんかな」

「・・・わかりました。じゃあ、今日はいらっしゃらないんですね?」

「あ、ああ」

三村の声がちょっと沈んだように思えた。宮田にとっては、ちょっと嬉しいリアクションではあった。

「何か問題があったかね?」

「いえ、いいんです。個人的なことですから・・・。それじゃあ、お大事にしてくださいね」

「ありがとう」

電話を切った宮田の脳裏には「個人的なこと」という三村の言葉が風邪の菌といっしょにグルグルまわっている感じだった。

妻が戻ってきた。

「あら、あなた。おかゆは?」

「うん、食べ終わった」

「じゃあ、これ。おクスリ。それともお医者さんに行かれます?」

「いや、とりあえず、これでいい」

「それじゃ・・・飲み終わったら横になっていらした方がいいですよ」

「うん、そうする」

病人となった夫は、妻にとっては子供同然だ。
宮田は再びベッドにもぐり込むと、ひたすら三村のことだけ思い返していた。


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