THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行8 11/11


■二人の絆

デパートができたおかげで駅前は夜でもだいぶ賑やかになったが、もともと新興住宅街だったこの場所は、5分も歩くと急に静けさをとり戻す。
それにしても宮田一家がこの地に来た頃、そこら中にあった空き地は、もうひとつもない。

こうして妻と2人きりで夜道を歩くのは、久しぶりのことだ。

妻に合わせるように、いつもより少しゆっくり目のペースで歩いている宮田に妻が話しかけた。

「・・・本当にごめんなさいね」

「まだ言ってるのか・・・もう、いい。しかし、よかったな、とりあえず」

「うん。・・・携帯電話も木下さんにいただいた物だって聞きました」

宮田は思わず立ち止まって言った。

「そうか?!・・・そうなんだよ。それを言いたかったんだ」

「やっぱぁ・・・誤解してたみたいね、私。あなたのことも木下さんのことも」

妻が見上げた夜空には、雲の切れ間にクッキリと三日月が浮かんでいた。

「知っての通り、俺は10万以上もする物と言えば、車と家しか買ったことないからなぁ。木下みたいなヤツがいて本当に助かったよ」

同じく月をあおいだ宮田がそう言うと、妻は宮田の顔をマジマジと見て言った。

「・・・あら、やだ。忘れちゃったのぉ? 車とウチ以外にもあるでしょうがぁ?!」

「えっ?」

宮田は思い当たるフシはなかったが、何となくあわててしまった。

「いゃあだぁ。・・・あなたがくれた婚約指輪よ」

「そういや・・・そう、そうだったな」

笑顔の二人は二人で作った家へ向かって再び歩き出した。

だが、ついさっきまで夜空を照らしていた三日月が、また新たに流れてきた雲に隠れつつあっることに二人は気づかなかった。

・・・be continue.

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