THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行8 10/11


■困った時はお互いさま

木下が宮田夫妻の元へ戻った時、彼の手に水晶玉はなかった。
それを見た宮田は叫んだ。

「返せたのか?」

木下はニヤリと笑うと宮田夫妻の目の前にローン契約書の控えを取り出すと、ビリビリと破って見せた。

「ありがとうございました」

深々と頭を下げる宮田の妻。宮田も妻の肩を叩いて喜んだ。

「書類が信販会社の方へまわってると、チト面倒なんだけどな・・・こういう連中はスボラだから助かったよ。ついでに今度はもっと本物らしいヤツをうちから買えって名刺置いてきた。結構、商売になるかもな」

その言葉を聞いて、思わず顔を見合わせた宮田夫妻だが、今度ばかりは木下サマサマだ。
木下嫌いだった宮田の妻もさすがに木下の友情に感謝せずにはいられない。

木下とはデパートの入口で別れた。
ベンツで家まで送って行こうとも言われたが、ここから自宅までは近い。

「木下。本当に助かったよ。ありがとう」

別れ際、宮田は心の底から言った。

「まぁ困った時はお互いさま・・・ってことだよな、宮」

「うん。・・・最も俺が木下のことを助けられることなんか、なかなかないと思うけどな」

「そんなことはないさ・・・そのうち頼むこともある」

「そんな時があったら、何なりと言ってくれ」

この時の宮田の言葉が後々新たな騒動につなかっていくとは、もちろん今の宮田は想像もしていなかった。
とくかく今夜は木下のおかげで妻とのわだかまりも溶けたし、久しぶりにグックリ眠れそうだ。


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