THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行8 9/11


■蛇の道は蛇

3人は木下の車で問題のデパートへ向かった。

「車で行こう」と木下が言った時、確かヤツの車は2人乗りのスーパーカーだったはずだと宮田は少し心配したが、店で借りている駐車場には、もう一台乗用車があった。
この車の名前なら宮田でも知っている・・・ベンツだ。もちろん知ってはいたが宮田が乗るのは初めての経験だった。

デパートの売場は閉店間際だったが、レストラン街は11時まで営業している。
もちろん、そのわきにある占いコーナーも開いていた。

宮田の妻に場所だけ確認すると、木下は宮田夫妻をベンチに待たせて、ひとりで占いコーナーに向かった。
胸元から取り出したレイバンの真っ黒なサングラスをかけながら・・・。

あいにく宮田の妻に水晶玉を売った占い師の姿は見あたらなかったが、木下はひまそうにしている初老の占い師をつかまえると、いきなり話をきり出した。

「いけねぇなぁ・・・こんなマガイもん、素人に売っちゃあ」

初老の占い師は、木下の風貌と話の様子から即座に客ではないと察知した様子だが、とぼけた様子で答えた。

「さぁ、わかりませんなぁ、こんな水晶玉。私はホレ、これが専門なんで」

占い師が広げたのは易に使う数十本の丸い棒の束。それをジャラジャラと手の中でかき混ぜて、瞑想にふけるポーズをとった。

「ふざけんなよ。ここで商売してりゃ、みんな仲間なんだろ? ここでよぅ」

木下が、そう言いながら占いコーナーの壁をつかんでゆすると、並んだ部屋まで大きく揺れて、中にいた2〜3人の客が驚いて顔を出した。

あわてた初老の占い師は木下に近づいて、それを止めると小声で言った。

「よしなさいよ、あんた。・・・たぶん、この水晶じゃあアキちゃんの仕事だろうけど、今日休みなんだよ。俺に言われても困るんだよ、ホントに」

「こんなリッパなデパートの中で商売してんだから、ローンの書類なんかはキチンと管理してるだろう? ・・・持ってきなよ。控えのファイル」

「いゃあ、もうとっくに信販会社の方に行っちゃってるんじゃないかなぁ・・・」

ユサユサユサ・・・木下の手がまた壁にかかった。

「仕方ねぇ、ほいじゃあここの外商部長に、まがいモン売りつけられたこと、相談しにいくっきゃねぇかぁ。すげぇイメージダウンだよなぁ、オープンしたてだってのに・・・」

「あんた、ここの外商部長、知っとんのかい?」

「佐藤だったか・・・いや、田中・・・」

「わかった! 何とかすっから、ちぃと待っとれや。・・・これから寒くなるってのに、また街頭に出されたんじゃかなわん」

初老の占い師は、ブツブツ言いながら部屋を出て行った。


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