THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行8 8/11


■持つべきものは・・・

宮田夫妻と木下は、木下の店の近くの喫茶店に腰を下ろした。
宮田の妻はふせめがちに水晶玉の入った風呂敷包みをテーブルに乗せる。

それをしばらく手にとって見た木下は、テーブルに水晶玉を戻すと、タバコに火をつけながら言った。

「・・・みごとにやられたね、奥さん」

息をのむ宮田夫妻。宮田が静かに尋ねた。

「じゃあ、これは?」

「これ? これガラス玉だよ、ただの」

「ごめんなさい、あなた!」

宮田の妻はくやしそうにギュッと目を閉じた。まぶたからは大粒の涙が絞り出されてきた。
宮田は何も言わずにハンカチを取り出すと、そっと妻に渡した。

「ま、ま! 奥さん。素人じゃあ仕方ないことだし・・・そんなにくやしがることはないよ」

タバコを灰皿に押しつけながら木下が言った。

「何か手だてがあるのか?」

宮田が身をのり出す。

「ローンで買ったって言ったよね? 契約書持ってきた?」

「は、はい」

宮田の妻は鼻をすすりながらバッグから書類を取り出して木下に渡した。

「・・・うん、大丈夫。一応、デパートで売ってる物だからな。大手の信販会社使ってる。これなら問題ない」

「解約できるのか?」

「ああ、もちろん。クーリングオフって制度もあるし・・・まだ7時だな。確かあのデパートは8時頃までやってるだろう?! これからすぐ行こう」

「いっしょに行ってくれるか?」

「もちろん・・・宮の頼みなら、な」

「すまん」「ありがとうございます」

宮田夫妻は、ただただ頭を下げるだけだ。


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