THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行8 6/11


■待ち人は・・・

宮田の会社内では、柳がいきなり坊主頭になったことについて、さまざまな憶測が飛んでいた。

仕事で大きな失敗をしたから? ダイエーが優勝したから? それとも・・・失恋??
本人は、いつものようにいたって陽気に「野球部だから、この方が仕事にも気合いが入る」と言っていたが、失恋という噂に対して一番敏感に反応していたのは、柳の誘いを断った三村だった。

宮田課長との間に何かがあった・・・という噂が広がったのは午後になってからのこと。
どうやら営業から戻った岡崎が真相を一部漏らしたらしい。

宮田にも、そんな社内の空気は感じとれたが、あえて無視して忙しく仕事に没頭していた。

宮田が逃げ込む先は、いつも仕事の中だ。
彼自身にもそれは重々わかっていたが、仕事をするために会社に来ていて、仕事に没頭して何が悪いことなどあるものか・・・と思うのが常だった。

社内の興味本位な噂話のことより、妻のことが気になるのも事実。
しかし、それ以上に本当は、これほど噂が流れると、気にした三村からまた誘いがあるかもしれない・・・という期待とも不安もとれない気持ちもあった。

誘われたら、きっと自分は断りきれずに今度はその世界に逃げ込みたくなってしまう。
しかし、家庭のこともこのまま放っておくわけにもいかない。

でも念のため、携帯電話の電源だけは入れておこう。

夕方、早めに会社を出た宮田は、しばらくの間、駅までの間にある立ち飲みコーヒーの店で時間をつぶすことにした。

時間をつぶす・・・というのは、おかしい。明確に誰かを待っているというわけでもないし、ちょっと考え事をするために入るんだ、と自分に言い聞かせながら。

180円のコーヒーをあとひと口で飲み終わるというところで、ダイミングよく携帯電話は振るえ出した。
一瞬、顔をほころばせた宮田は、そそくさと内ポケットから携帯を取り出した。

「宮田だ」


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