THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行8 5/11


■水晶玉の真実

隣の主婦はテーブルにつくと、モナカをがぶりとひと口で食べた。

「しかし、アレよね・・・。奥さんがあんな占いに凝ってちゃ、ダンナも逃げ出したくなるわよね」

宮田の妻は一瞬、ギクリ・・・とした。
その表情を見逃さなかった隣の主婦は、すかさずフォローを入れる。

「あら、あなたは大丈夫でしょ?! 別に占いにまどわされるような人じゃないし」

「も、もちろん」

あわててお茶をすする宮田の妻。ここで動揺しては町内にどんな噂が広がるかわからない。

「まぁ、占いも趣味のひとつだから・・・別に悪くはないけど・・・。あんなもんに10万も使われたんじゃ、やっぱ稼いでるダンナはちょっと可哀想よ」

「10万?! ・・・だったんですか? 戸田さんの水晶玉」

宮田の妻は、隠そうとした動揺が思わず顔に出てしまった。
自分が30万で買った水晶玉と同じ物を3分の1の値段で買った人がいるなんて・・・。

「そうよ10万。何でも駅前にいた路上の占い師から買ったんですってよ。30万のところ10万でいいって言われて。いくらおトクって言っても10万もねぇ・・・」

間違いない・・・かもしれない。宮田の妻の不安はふくらむ。

「そうそう、そう言えば、その占い師。今度、デパートが建ったんで路上から立ち退かされたんで、代わりにデパートの中に店を出させたらしいわね」

間違いない・・・もうダメだ。宮田の妻は、すべてを悟った。

「ところで、宮田さんの水晶・・・どこでお買いになったの?」

「あ、あの・・・通販で・・・」

「ああ、通販ね。通販のカタログって見てるとおもしろいものねぇ。つい何でもほしくなっちゃう、わかるわ」

隣の主婦がお昼前に帰るまで、何とか気を張っていた宮田の妻は、ひとりになった瞬間、その場にへたり込んでしまった。

どうしよう・・・。
今更、あの水晶玉が幸福を運んでくれるとは、到底思えるはずもない。
食器棚の中に大切にしまっているのは、ただの借金のカタマリだ。


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