THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行8 3/11


■隣の主婦、襲来!

朝食を作り、夫と息子を送り出す。
洗濯機がまわっている間に洗い物を済ませて、洗濯物を干す。

主婦としての仕事を無言のまま、淡々と終えた宮田の妻の元へ隣の主婦が訪ねてきたのは10時をちょっと過ぎた頃だった。

「昨日はごめんなさいね、はぐれちゃって・・・」

結局、隣の主婦が昨日デパートで購入したのは、手にしたモナカだけだったらしい。
お茶を入れながら宮田の妻は答えた。

「大変な人でしたのもね・・・。でも気分転換にはなりましたわ」

隣の主婦はおしゃべり好きだというだけで、決してイヤミな性格ではなかったが、こうしてお茶菓子を持って上がり込んで来た時には、たいていダンナか子供・・・あるいは同じ町内会の人に対する愚痴を聞かされるのがオチだ。
宮田の妻としては早いところお茶を入れて、さっさとモナカを食べ終わりたい・・・という気持ちがあった。

モナカをすすめながら、出されたお茶をひと口すすった隣の主婦は、しげしげとダイニングを見渡しながら言った。

「いつもキレイにされてるわねぇ。お台所までピカピカじゃない?! ウチなんか、そこかしこ油でベトベトよぅ」

「いえ、うちは主人が揚げ物をあんまり好まないもので・・・」

「アラ?」

隣の主婦の視線が、宮田の妻が背にした食器棚のあたりでピタリと止まった。
しまった! リビングに通せばよかった・・・お茶を入れるのを急いだばっかりに・・・!
次の瞬間、隣の主婦の口からは、宮田の妻が想像した通りの言葉が出てきてしまった。

「あれ・・・水晶玉よねぇ?」

「ええ、まぁ」

隣の主婦は立ち上がって近づくと、しげしげと食器棚の水晶玉をのぞき込んだ。

「ねぇ、これお高かったでしょう?」

「はぁ、あんまりキレイだったもんで・・・つい」

宮田の妻にとっては、あまり追求してほしくない話題ではあった。
しかし、隣の主婦の話は思わぬ方向へと進んでいった。


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