THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行8 2/11


■ロイヤルコペンハーゲンは何処へ?

自宅のベッドで目を覚ました宮田は、まず枕元のベッコウ・フレームの眼鏡を確認した。
もちろん、眼鏡は夕べ置いたままの状態にあった。

ゆっくりと眼鏡をかけて見ると、目覚まし時計はまだベルの鳴る位置まで来ていない。
1時間も早く起きてしまった。

夢で良かった・・・と思っていいのか、悪いのか?

三村のことは、ともかく道後温泉・・・。
そんな昔の思い出が夢に出てくるなんて・・・。悩みひとつない子供の頃の話だ。
宮田は自分が精神的に疲れていることをあらためて感じた。

そして、夢に出てきた無表情な妻の顔。

ふと隣りのベッドを見ると・・・妻がいない。
宮田はカーデガンを羽織りながら寝室を出た。

妻は台所にいた。
流しに向かって背中を見せている。

ホッと胸をなで下ろした宮田は「おはよう」と言いかけて、次の瞬間、眉をひそめた。
妻は流しからグラスいっぱいの水を手に振り返ると、テーブルの上に置かれた水晶玉にゆっくりと、その水をかけはじめた。

「何してんだ? オマエ」

力無く宮田が言う。

妻は小声で「あら、早いのね」と言うなり、そそくさと水晶玉を食器棚の中へ移した。
夕べまで、コーヒーカップが並べられていた食器棚の一角は、さながら神棚にでもなったように水晶玉を中心としたスペースとして整えられている。

宮田と妻が新婚旅行先のヨーロッパで購入したお気に入りのカップも何処へしまわれてしまったのやら・・・。

毎年、結婚記念日の朝は、そのカップでゆっくりと紅茶を飲むのが恒例だった。
そう言えば、今年の結婚記念日にはあのカップで紅茶の飲んだ記憶がない・・・。
宮田は、ようやくそのことに気づいたが、今朝は何を言う気力もない。

とりあえず、この妙な沈黙を埋めるためには、テレビのスイッチを入れるより方法はなかった。


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