THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行7 9/14


■希望の光?

占い師は両腕に幾重にもはめた腕輪と10本指のうち8本にはめた大きな指輪をジャラジャラいわせながら、再びタロットカードをかきまぜはじめた。
やがて一枚のカードを引く。何か毒々しいイラストが描かれているが、宮田の妻にその意味はわからない。

「今世紀中に対策を実行しないと、21世紀はあなたが思いもしなかった不幸にみまわれることになるわね。アナタ自身が重い病気になったりすることは、まずないと思うけれど・・・。家族が大きな失敗をした結果、アナタにも影響が出てくる暗示ね」

「家族の失敗って・・・例えば受験がうまくいかないとか?!」

「そうね。そういうこともあるかもしれない。・・・それに別れとか」

「別れ?!」

身も知らぬ女性と立ち去っていく夫の姿が脳裏をかすめた。
宮田の妻の不安は頂点に達していた。

「回避する方法がないわけではないわ。せっかく、この部屋に来ていらしたんだから、不安にさせるだけじゃ申し訳ないものね」

占い師はそう言うと、わきにあった台の下から小さな箱を運んだ。
タロットカードをよけると、その箱の中味を取り出す。中にはテーブルに置かれていたものよりは、ひとまわりくらい小さな水晶玉だった。

「アナタの誕生石から考えると、この大きさで充分だと思うの。この水晶を家の一番東側の部屋に置いてね、毎朝コップ一杯の水をかけておやりなさい。・・・水は必ず前の晩から汲み置いたものを使って、水道から直接かけてはダメよ」

「はぁ・・・。でも、これ・・・お高いんじゃあ・・・」

「オープン記念でね、お安くなっているのよ。定価50万のところが、30万」

「30万?!」

「驚くことはないわ。アナタのお年だと、あと30年・・・いや40年は充分生きるでしょ?! 仮に30年だったとしても年間たった1万円よ。1万円で幸せが買えると思ったら、お安いものでしょう?」

「まぁ・・・」

「そのかわり、これを買っていただいたら占いの代金は結構よ。普通なら3,000円いただくところだけれど」

結局、宮田の妻は占いの料金がサービスになるということで、この水晶玉の購入を決めてしまった。
当然、サイフには30万も入っているはずはなかったが、水晶明かりの中でローンの用紙を記入した。

明るいオモテへ出ると、何だかキツネにつままれたような気分にもなったが、とにかく今は、この水晶玉のパワーにすがるしかない・・・と自分に言い聞かせながら家路についた。


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