THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行7 7/14


■ビブラートの誘い

レストラン街をぬけたところには、ちょっとした広いスペースがあった。
小さな噴水の前のベンチに腰を下ろした宮田の妻は、とりあえず地下の食品売場で総菜でも買って帰ろう・・・と考えていた。

ふと、顔を上げると噴水の向こうに小さな部屋が並んでいるのが見える。
何だろう?・・・そう思った宮田の妻は、ふらっとベンチを立つと、なぜか吸い込まれるようにその部屋に近づいた。

占いの館・・・部屋の上には、そうあった。
3つの小さな部屋のうち、2つの部屋からはお客さんの背中が見えていた。

なんだぁ占いかぁ・・・。でも結構、繁盛しているようね。これだけ人が多いんですもの・・・場所がいいから。それとも、悩んでいる人って、やっぱり多いのかしら・・・。私は・・・・?

考えを巡らせながら、その場に立ちつくしてつまった宮田の妻に声をかける者がいた。

「アナタ! ねぇ、アナタ!」

聞き覚えのないビブラートのかかった声に、まさか自分のことを呼ばれているとは思わなかった宮田の妻はハッとした。

「私? 私ですか?」

「そう、アナタ。何かお悩みがありそうね。さ、こっちいらっしゃい」

声の主は、ひとつだけ客が入っていない部屋の占い師だった。
その風貌は、男性とも女性ともつかなかったが、紫色にベットリと塗られたアイシャドーの下の瞳と真っ赤に縁どられた唇は優しく微笑みかけていた。

たじろいだ宮田の妻は、あたりを見回した。
占い師は、その仕草を見逃さなかった。すぐさま立ち上がって宮田の妻に寄ると、

「大丈夫よ。まわりなんか気にしなくて。ちゃんとカーテンが閉まるようになってるから」

と言って、そのまま宮田の妻を部屋の中へうながすと、シャーッとカーテンを後ろ手に閉めた。


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