THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行7 3/14


■主婦のつき合い

「あ〜あ、ひどい顔」

寝室にある鏡台の前に座った宮田の妻・裕美子はつぶやいた。

良樹も時間通り学校へ向かったようだ。
本当は玄関で見送りたかったが・・・泣きはらした目を見られるのも気が引けた。

思えば結婚して18年・・・。
夫が出張で家を空けた時以外で、夫と別々の部屋に寝たのは、良樹が生まれた直後、夜泣きが激しかった頃以来のことだ。

化粧瓶に並んだ小さな置き時計を見ると、もうすぐ9時になるところ。

「いけない! 今日はゴミの日だったわ」

あわてて台所の隅にまとめてあったゴミ袋を抱えて、三軒先の角に向かう。
幸い清掃車は、まだ来ていなかった。

カラスよけのネットをはずし、持ってきたゴミを置く。
再びネットを戻そうとした時、背後から声がした。

「いいのよ宮田さん、私も今出すところだから」

声の主は隣の奥さん。宮田の妻よりは少し年が上だ。

「あ! おはようございます」

と言って振り返ろうとした宮田の妻はハッとなった。・・・マズイ! この顔を見られたら突っ込まれる。
しかし、時すでに遅し。

「アラ、どうしたの? 宮田さん? 泣きはらしたような目をしてぇ」

「いえ、あの・・・ちょっと花粉症で」

「花粉症? ずい分、季節はずれねぇ。最もアレっていろいろ個人差があると聞くから・・・」

「そ、そうなんですよね。ホント困っちゃう」

「ねぇ? ワタシまたご主人と何かあったんじゃないかって・・・余計な心配しちゃったわよ」

「そんなんじゃないです、ハハハ」

「ねぇ? お宅のご主人、マジメな方だから、夫婦喧嘩のタネになるようなことはないでしょうしねぇ」

「ハハハハ」

宮田の妻にとって、こうして笑うには、かなりの内面的な努力が必要だった。


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