THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行6 7/12


■柳の決心

その日一日、外回りをしていた柳は、ふと今朝の噂話について考え込んでしまった。
どうして、この程度の噂話がこんなに気にかかるんだろう?
自分が三村クンのカタを持つのは、課長と同じく、三村クンがいつも一生懸命仕事をしているからに違いない。・・・だったら、何もヘンな噂など気にする必要はないじゃないか?

こういう妙な思いを昔も感じたことがあるのを柳は思い出した。
小学校高学年の時だ。同じクラスの女の子が、なぜか無性に気になって、学校の帰り道にわざわざ遠回りをして、その娘の家のまわりを通って帰ったことがある。
一度、バッタリその娘と出くわして、あわてて逃げた。逃げるくらいなら、行くことないのに。

本当は、この間も・・・課長をダシにして自分は三村を誘いたかったんじゃないだろうか・・・?
そこまで考えると、柳はもういてもたってもいられなくなってきた。・・・俺はもう逃げない!

思ったことが、すぐに行動となって現れるのが体育会系人間の最大の長所であり短所でもある。
外回りを早めに切り上げた柳は、三村を強引に廊下へ連れ出した。

「三村クン。実は聞いてほしいことがあるんだ・・・何と言っていいかわからないが。とにかく今夜。そう、今夜。時間空いてないかな?」

柳の異様な迫力に驚いた三村は、うつむいたまま言った。

「ごめんなさい。今夜は・・・ダメなの。約束があるの」

「じゃあ、明日の夜でもいい」

「・・・わからないわ。ごめんなさい」

そう言って、三村は自分の席に戻ってしまった。

さすがに性急すぎたか・・・と少しばかり反省した柳は、しばし呆然としていたが、頭に上った血を分散させるために、その場でヒンズースクワットを30回ほどやった。

「柳、何やってんだ? おまえ」

声をかけたのは、ちょうど外回りから戻った同僚の岡崎だった。

「ちょっと、運動不足でな」

「・・・欲求不満なんじゃないのかぁ? おまえ」

「・・・かもしれない」

脂ぎった顔を柳に近づけた岡崎は、そっとささやいた。

「いい店見つけたんだよ、行くか? よし、今日行こう、今日。きっとだぞ」

柳の返事も聞かないで、岡崎は小太りした体をスキップさせて事務所に戻って行った。
岡崎が言ういい店とは、きっと女性のいる店に違いない。
柳はその手の店が苦手ではあったが、どうせ今夜は特別な予定もなくなったし・・・。
第一、岡崎は断ると最後までしつこい男で有名であった。


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