THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行6 5/12


■三村の悩み

「いいのかい? また牛丼なんかで?」

「ええ、この間、課長と食べたのが、とってもおいしくて・・・。その変わり、またあの店につき合っていただけますか?」

「いいとも」

先週の月曜日とまったく同じコースを2人はたどった。ただ、ひとつ違うのは今日は最初から2人きりで会うことになっていた・・・ということだ。

今夜も海の見えるバーは空いていた。
2人は先週とまったく同じ席に腰を落ち着けた。

「さて・・・それで、相談というのは?」

ベッコウ眼鏡をテーブルに置いて、おしぼりのを顔に当てた宮田が尋ねた。

「課長・・・課長は奥さまと恋愛結婚ですか?」

宮田は、おしぼりの中で眉間にシワを寄せた。
何で、こんな時に女房の話なんか・・・と思ったが、そんなことを自分が思ったことを女房が知ったら、どんなに沈んだ顔をするだろうという気持ちが心の片隅には残っていた。

おしぼりをとった宮田は、静かに眼鏡をかけると、自分をジッと見つめる三村の目を見た。
吸い込まれそうになる気持ちをおさえて、窓の外に視線を移す。そして、ゆっくりと話はじめた。

「うちのヤツとはね、大学のサークルがいっしょだったんだ。学年は離れてたんだけどね。学祭の時だったかなぁ・・・私がOBとして呼ばれて行った時に初めて会ったのがきっかけだよ。・・・何でまた、女房のことなんか?」

「ごめんなさい。ヘンな質問しちゃって・・・。やっぱり恋愛結婚ですよねぇ。・・・実は私、この間の休みにお見合いしてきたんです」

「見合い?!」

「ヘンですよね? 私が見合いなんて」

「いいや、君くらいの年頃なら決して不自然なことじゃ・・・ないな」

「私・・・やっぱり、そんな年なんですね」

三村は、ちょっと寂しそうな顔をして視線を落とした。

「そういう意味じゃなくて・・・一般的な話だが」

そうは言ったものの、今の自分の言葉は何の言い訳にもなっていないのを宮田自身も気づいていた。
だが、何と言っていいのかわからない。

つまり三村は、田舎の両親に乗り気のしない見合いをさせられて困惑していることを誰かに聞いてほしかった・・・。
生真面目な三村には東京に遊び友達が少ない。頼りになるのは上司でもある宮田だけだ。


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