THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行6 3/12


■ダンドリー宮田の自制心

宮田は土日を家でのんびりと過ごした。
思えば、ここ数週間は土日もフルに近い状態で何かと動き回っていた。

仕事の疲れも寝ただけではとれない・・・やっぱり年なのかな、とボーッと天井を見つめる。

天井にシミを発見した。どこからか雨が染み込んでいるのか?
考えてみると、この建売住宅を買ってから、もう10年くらいになる。
そろそろ、あちこちが痛みだして来ている。
ローンの返済は、まだ20年・・・。
返済を終わった頃には、建て替えなければならない・・・なんてことになりはしないだろうか?

確かに土地は残るけど、退職金を立て替え資金に充てることになったら、まるで家のために一生働いているようなものだ。
待てよ。20年経ったら良樹も34、5・・・。もう結婚してるだろう。
この狭い土地に二世帯住宅は建てられるのだろうか?
その前に、良樹は俺たちといっしょに暮らしてくれるのだろうか?
高校受験をひかえた今のアイツにそんなことを尋ねても仕方ないが・・・。
それゃあ、アイツんとこに来る嫁さん次第だな。俺たち夫婦は娘を持ったことがないから、いっしょに暮らすことになったら対処に困るだろうな・・・いろいろと。

ボーッとしているつもりが、ついついそんな思いで頭がいっぱいになってしまう。
体はグッタリしているが、精神的にはちっとも休まらない。

精神的にリラックスするためには日常から離れないとダメだ・・・そう思った瞬間、三村の顔が浮かんだ。

少し後ろめたい気持ちになった宮田だが、まわりに妻の姿がないことを確認すると、次々と浮かんでくる三村の表情に内心ほくそ笑んだ。
とくに、ほろ酔い加減でほてった時の三村の表情・・・その表情に宮田は空想の中でストップモーションをかけた。

ストップモーションを解除すると、記憶の中の三村はタクシーで走り去って行ってしまう。
その先の記憶は宮田の中にはもちろんなかったし、空想をふくらますのには少し怖い気持ちもあった。

自分が望んでいることにハッキリと気づいてしまったら・・・。おそらく自分は、その実現のために全精力をかたむけて邁進していってしまうだろう。
ダンドリー宮田にとって、それはギリギリの自制心だった。


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