THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行6 2/12


■多忙の一週間

宮田が両目を開けた時・・・テレビでは『刑事コロンボ』が終わっていた。

ソファーの隣に座っていた妻、裕美子が言った。

「あら、やだ。あなた、また寝ちゃったんですか? おもしろかったのに・・・」

その前の床に腰を下ろしていた息子が振り返る。

「とうさん、いつも肝心な部分見てないよね?」

目をこすりながら宮田は答えた。

「・・・いや、いいんだ。犯人はわかってるから」

宮田家にとっては、ひさしぶりの家族団らんの週末である。
こんなにのんびりと一家そろって映画のビデオを見るのは数ヶ月ぶりのこと。

思えば、この一週間、宮田は激務に耐えていた。
関連会社の倒産騒ぎで、早朝から深夜まで処理に追われる毎日。自宅で夕食を食べたことは今週一度もなかった。

その騒ぎが、ようやくひと段落ついたところで、部下の柳俊雄が宮田に近づいてきた。

「課長、この間はすいませんでした・・・こちらからお誘いしといて・・・」

この間・・・とは、月曜の夜の話である。
上司思いの好青年、柳は宮田と三村を誘って、宮田の元気づけのために飲み会を計画したが、結局、客先でつかまって誘った本人が来られなくなったしまった。
だが、それは宮田にとって実に楽しい夜になった。

「この間ね・・・いゃあ気にしてないよ、別に。仕事だったんだから仕方ない」

「あの後、すぐに穴埋めしようと思ってたんですけど、この騒ぎで・・・。でも、もうひと段落ですから、どうです? 今夜あたり」

「う〜ん、気持ちはうれしいがね。今週は、ちょっとボクもバテてね。もう年だから・・・。また、この次にしよう」

「そうですか・・・じゃ、また次の機会に・・・」

確かに宮田はバテていた。
しかし、理由はそれだけではなかった。
今夜の最終便で、三村が青森の田舎へ帰ることを知っていたのだ。

本当は三村は金曜日に休暇をとって帰郷する予定だった。
が、関連会社の倒産騒ぎでそれどころではない。仕事に真面目な三村は予定を変更して出社した。

だから、三村は今夜誘っても絶対に来られない。柳は気のいい男だが、しょせん体育会系。飲み始めたら、いつまで付き合わされるかわかったものではない。
三村が来ないんだったら・・・宮田もあえて、これ以上疲れることはない、そう思った。


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