THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行5 11/12


■今夜は最高

三村とは店を出たところで別々のタクシーに乗ることになった。
それでも宮田は充分に満足。・・・第一、この先の進み方はまったく想像もつかない未知の世界。

ほろ酔い気分に夜の風が気持ちいい。
三村は宮田に甘えるように言った。

「課長・・・楽しかった。最後にもうひとつだけお願いしてもいい?」

「いいとも」

こんなセリフは、よもやタモリ以外に使う人間はいまいと思っていたが、今夜の宮田はすんなりと口にすることができた。

「わたしにも課長の携帯の番号・・・教えてください」

「い、いいとも」

「さびしくなったら・・・電話してもいいですか?」

「も、もちろんだとも!」

三村をタクシーに乗せた宮田は、そのまま川崎まで走って帰ろうと思ったくらい元気にあふれていた。
酔った三村がそんな会話を覚えているという保障はない。
しかし、今の宮田にとってはどうでもいいことだった。

宮田が自宅の玄関にたどりつくと、ちょうど世理子が帰ろうとしているところだった。

「おお! ヨリちゃん久しぶり!!」

「すいません、義兄さん。遅くまで」

「ごめんなさい、あなた。ヨリちゃんがお土産で持ってきてくれたワイン・・・全部あけちゃった」

妻の笑顔を見て、宮田はますます嬉しくなった。

「いいんだ。いいんだ。それよりヨリちゃん、もう遅いんだから泊まってったら?!」

「そうしたいけど・・・明日、仕事入ってるし・・・」

世理子が、ふと宮田に近づいた。

「・・・義兄さん何か香水つけてる?」

一瞬、沈黙が走る。
それをうち破るように宮田は頭をかきながら言った。

「いゃあ、電車がこんでたからなぁ〜、最終だし」

「そう。アタシ最近、化粧品の仕事してるんで敏感になっちゃって・・・。じゃ、また今度ゆっくり」

そして世理子は帰って行った。


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