THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行5 10/12


■・・・正夢?

並盛りとみそ汁、お新香で腹ごしらえを済ませた2人は、タクシーをとばして芝浦まで来た。
ほんのワン・メーターの距離。

三村が知っていた海の見えるバーは、月曜日であることに加え、時間も早かったので空いていた。
まるで東京にいることを忘れるような静かな雰囲気の店だ。

青森出身の三村が、どうしてこの店を知ったのか、宮田はすごく気になっていたが、考えてみれは彼女も東京に出てきてからは長い・・・これまでに付き合った男性がいない方が不思議だ。
まして、今は彼氏がいないことを聞かされていたので、古傷にふれるような質問はしまい・・・と宮田は誓った。

しかし、昔話を聞けないとなると意外と話題はないものだ。
気がつくと、宮田は息子の話をはじめていた。

「課長さんにもあったんですか? 年上に憧れたこと」

グラスワインにややっほてった表情の三村が尋ねた。

「そりゃあ、あったさ、昔。遠い昔にね」

「どんな人でした? 」

「はは、もう忘れちゃったよ」

「・・・そうですよね。課長は奥様もいらっしゃるし・・・奥様は年上ですか?」

「いゃあ、ずっと下」

「私も中学時代だったかなぁ・・・テニス部の先輩に憧れたことがあったの・・・。でも今は」

「?」

「やっぱり年上の人がいいな」

「!」

「それも頼りがいのある・・・うんと年上の人」

言葉に詰まった宮田は席を立った。
トイレに入った宮田は、三村ごしに見えた港の景色、それから三村のセリフを反復して思い起こすと、ピシャリと自分の頬を打った。

「・・・夢じゃない」

そして、あわてて携帯電話を取り出すと、電源を切った。


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