THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行5 9/12


■三村の希望

かつて宮田が馴染みにしていた焼き鳥屋は跡形もなくなっていた。
どうやら、まわりの建物といっしょに大きなビルに建て替え中のようだ。

「・・・こりゃ、まいったな」

久しぶりに歩いてみると、このあたりも昔とはだいぶ様子が変わっている。

「焼き鳥屋なら、ほかにもある! 探してみよう」

と宮田が言いかけたところで、三村が話かけた。

「課長。わかまま言っていいですか?」

歩きかけた宮田は、その言葉に身が硬直した。

「な、何?」

「あの・・・牛丼食べたいんです」

「牛丼?」

「昔、ブームになったことあるでしょ? 牛丼。その時、私まだ田舎にいたもんだから近くになかったんです・・・吉野屋」

「吉野屋の牛丼でいいのか?!」

「ええ、東京に来てから一度入ってみようと思ってたんですけど、女ひとりじゃ何か入りづらくて・・・。付き合ってくれます?」

「おー付き合うとも、いいじゃないか吉野屋」

「その変わり、ささっと牛丼食べて腹ごしらえしたら、どっかに飲みに行きましょ!」

宮田は感動した。こんなに気取りがなく、しかも経済的な若い女性がいたことに。
そして、それが三村だったことに・・・。

さらに・・・ちょうどビルの谷間に位置する吉野屋は、大都会の死角・・・携帯電話の圏外だった。


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