THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行5 8/12


■雑踏のふたり

「課長! そろそろ出ましょうか?」

三村に声をかけられた宮田は事務所全体に聞こえるよう、異常に大きな声で答えた。

「そうだな。そろそろ行かないと柳クンを待たせてしまうからな」

待ち合わせ場所には約束の5分前に到着した。
ちょうど帰宅時とあって駅前の人通りは激しい。

1mと離れず立つ宮田と三村。間違いなく"連れ"に見える。
はたして周囲の目からは、どんな"連れ"に見えるのだろうか・・・。
そんなことを思いながら宮田がドキドキしていると、心臓の高鳴りをさらに激しくふるわすように内ポケットにしまい込んだ携帯電話がブルブルと振動した。

慣れないバイブレーションコールに一瞬だじろいだ宮田だが、三村の視線を気にしながらビジネス戦士を気どって電話に出る。

「宮田だ」

電話の相手は当然、唯一この番号を知る柳だった。

「すいません課長。ちょっとトラブっちゃって・・・。追っかけられると思うんですが、適当に進めてもらえますか? また後で電話入れます」

「わかった。こっちは気にしないで、君は全力をもって仕事のトラブルを解決してくれたまえ」

昼間とはうって変わった力強い宮田の言葉を聞いて、三村はちょっと安心した。
しかし、宮田の元気がいったいどこから来ているのかまでは考えなかった。

電話を切った宮田は、自分を方をジッと見ていた三村に向かって言った。

「柳クンは遅れるようだ。仕事だから仕方ない・・・。とりあえず、どこかに入って待とう。・・・何か食べたい物はあるかね? 」

「私でしたら何でも・・・。でも、ちょっとお腹が空いちゃったから・・・」

「?!」

「おいしい焼き鳥なんかいいなぁ・・・」

「焼き鳥! まかせたまえ!!」

新橋では焼き鳥屋しか知らなかった宮田はホッとして三村を先導した。


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