THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行5 7/12


■世理子と良樹

宮田家の夕食は、世理子の土産話で大いに盛り上がった。

土産のワインもすでに1本半空いていた。
そのうちの約1本分を飲み干したのは世理子だが、ボトル半分くらいは珍しく宮田の妻も飲んだ。
中学生の良樹は、本当は飲めないことはなかったが、母親の前で飲んでもどうせ飲んだ気はしないので、おとなしくしていた。

「ちょっと飲み過ぎちゃったかしら」

宮田の妻がそう言ってソファーで横になってしまったので、オバと甥は2階の良樹の部屋へコーヒーを持って上がった。

「さて、おばチャンの話は、これでおしまい。今度は良樹の番よ。さぁ話しなさい!」

「世理子おばチャン・・・かあさんに聞けって言われたんだろ?」

と一瞬、身を固くした良樹だが、半分目が座った世理子の態度は変わらない。

「そうよ。さ、話しなさい!」

あいかわらずアッケラカンとした世理子の態度に良樹は「まいったなぁ・・・」と言いつつ、重い口を開き始めた。

彼女は高校3年生。
名前はクミ・・・名字は、実のところ良樹もよく知らない。

知り合ったのは今年の夏。
夏期講習に通っていた時、良樹は昼休みにいつもコンビニの弁当を買って近くの公園で食べていたが、彼女もちょうど高校の補習中で、おなじようにその公園でコンビニ弁当をつついていた。

来年卒業する彼女は美容師を目指している。専門学校に進む予定だ。
受験のない専門学校に進むのに夏休みまでつぶして勉強するのは彼女にとっては不本意だったが・・・補習に出ないと卒業が危ない。

はじめはグループで付き合っていたが、やがて1人っ子同士ということで話が合い・・・良樹の方が、すっかり熱を上げてしまった。

彼女は今風のパツキン娘。でも自分では美容師になるための実験のつもりらしい。
良樹に対して、とにかく今は高校受験に専念するよう言っているという。

良樹の話がひととおり終わると、世理子はニヤリとして言った。

「なんだ。その娘、なんかワタシにそっくりじゃん?! やっぱ良樹は世理子おばチャンが好きなんだ!」

ひたすら顔を赤らめる良樹は、まだウブな中学生に違いなかった。


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