THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行5 5/12


■職場の昼下がり

その日の午後も宮田は仕事に集中できないでいた。
普段なら3回コール以内で素早く握る受話器も、今日は5回、6回と鳴りっぱなしになる始末。

宮田自身は妻や息子のことで悩んでいるはずだ・・・と思い込みたい気持ちはあったが。

ふと視線を落とすと、机の下には充電中の携帯電話が見える。
そして視線を上げれば、5mほど先には三村がいる。

宮田の視線は机の上の書類を通過して、その2点をひたすら行ったり来たりしていた。

「課長なんかヘン・・・よね」

宮田の課にいる、三村の宿敵!・・・OL3人組もさすがに宮田の異変を察知していた。

さて、3人が恰好の話題を得て、これからお得意のヒソヒソ話をはじめようと、椅子を転がし肩を寄せ合った瞬間。

「な? おまえらも、そう思うだろ?!」

柳が割り込んだ。絶妙なタイミングにドキリとする3人は顔を見合わせたまま、声も出ない。
してやったり・・・! 柳は話を続けた。

「たまには、どうだ? 俺たちから誘って・・・課長と一杯やらないか?」

その言葉を聞いたOL3人組は、漫画で言えば、さしづめ顔にタテ線が何本を入ったような表情のまま、口をそろえて言う。

「・・・私たち、結構です」

そして、そそくさと仕事に戻った。

3人組の返事はわかっていた。柳にしてみれば、ただ聞いてみただけだ。
柳が真剣にその相談をしようと思っていたのは、ひとりもくもくと仕事をしている・・・三村だけだ。

「三村クン・・・そういうワケなんだけど、どうかな? 君は」

3人組とのやりとりは、当然すぐ近くにいる三村の耳にも届いている。
にもかかわらず仕事の手を休めることはなかった三村は、柳の誘いにようやく手を止めた。

「私は・・・課長さんさえよろしければ・・・」

「よし! それじゃ決まりだ」

柳は、そう言いながら三村の肩を軽くポンと叩くと、早速、課長席に足を向けた。


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