THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行5 3/12


■姉と妹

その頃、宮田の自宅では妻があいかわらずボーッとした時を過ごしていた。

いつもならこの時間は洗濯を終えて、家中に掃除機を走らせている時間帯なのだが・・・息子の部屋に入るのがなんとなく怖かった。

息子が登校拒否をせず、学校にだけはキチンと行ってくれているのが、彼女にとって唯一の救い。
しかし、朝家を出たものの、本当に学校に着いているのだろうか?・・・そんなことを考えると、ますます不安が心をよぎった。

いっそ、良樹の学校に確認の電話を入れてみようかとも思ったが、それがまた良樹の心を逆なですることになっては困るし・・・夫が言うように今は息子を信じるしかない。
そう自分に言い聞かせた。

昼過ぎになって玄関のチャイムが鳴った。

ドアを開けると、ポニーテールにジーパン姿の女性が大きな紙袋を抱えて立っている。

「や!」

「なんだ、アンタ・・・」

「ちょっとお、アンタはないんじゃないの?!」

彼女は宮田の妻の妹、世理子(よりこ)だ。

「昨日、日本に戻ってきたから、今日あたり行くって電話したでしょ?」

「・・・そう、だったわね」

世理子は独身。フリーカメラマンとして広告制作の現場にいる彼女は海外出張も珍しくない。

「今度は、どこに行ってきたの?」

「パリ・・・3度目でようやく凱旋門に登ったわ。あとは例によってクライアントの事務所とスタジオにこもってたけど。・・・はい、お土産」

紙袋の中には2本のワインが入っていた。

「上等なヤツ・・・でも日本で買うのの10分の1よ」

「あら、ありがと」

姉はテーブルの上に置かれたワインを手にとることもなく、再び座り込んだ。

「ちょっとぉ、どうしたの?」

久しぶりに会った姉の元気のなさに、ようやく世理子は気づいた。


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