THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行5 2/12


■会議室の醜態

マズイ!・・・と叫びそうになった宮田はテーブルに思い切り額を打ち付けてしまった。

ゴチン!!

周囲の目が宮田に集まった。
10名ほどが集まる会議室・・・プレゼンテーターの話も一瞬止まった。

ようやく目を覚ました宮田はスクッと立ち上がると「申し訳ありません!」と直立不動で周囲に詫びると、会議室を退出した。

その後姿を目で追いながら何人かがささやく。

「最近・・・おかしいな、課長」

何も言わずに宮田を見る部下、柳俊雄の姿もそこにはあった。

洗面所で思い切り顔を洗った宮田は、しばし鏡に映る自分の顔を見る。
息子のこと、その息子を心配するあまり落ち込みがちな妻のこと・・・そして三村へのモヤモヤとした思いが駆けめぐった。

いかん! 男は仕事だ!!・・・自分にそう言い聞かせるように頬を両手で打って、宮田は洗面所を出た。

宮田が再び会議室の方へ足を向けようとすると、柳が歩いてきた。

「会議は?」

「終わりました」

数冊のファイルの上に大きめの計算機を重ねて持った柳は答えた。

「何だ? 終わっちゃったのか」

「結局、誰かが起きていようが寝ていようが関係ないんですよ」

柳は、ちょっとニヤリとしながら宮田の顔をのぞきこんだ。
しかし、宮田はピクリとも笑わない。

「そういう言い方は良くないな・・・寝ていた私が悪いんだから」

「でも、ほかの人たちだって、みんな目を開けて寝てますよ。とくに月曜朝イチの会議は」

「・・・・」

課の方角へ歩き出した2人・・・柳は宮田に尋ねた。

「お疲れのようですね?」

「うん、まぁ・・・うちでいろいろとあって・・・」

「確か・・・受験生の息子さんがいらっしゃるのでは?」

「そうなんだ・・・いや、心配かけてすまん」

立ち止まった宮田は、席に戻る前に聞いておきたいとこがあった。

「・・・ところでキミは携帯電話持ってるかね?」

「持ってますが」

「あの充電というのは何時間くらいやればいいもんかね?」

「そうですねぇ・・・機種によっても違いますけど・・・。課長も携帯をお持ちなんですか?」

「うん、ちょっとね。まぁ、ずっとやっとけば問題ないんだろうな」

宮田は、そう言うと再び歩き出した。
宮田の携帯の番号は、まだ誰も知らない。誰からもかかってくるはずはない。


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