THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行4 14/14


■妻の嘆き

コインロッカーの鍵は、会社の鞄に忍ばせた。

寝室に入って着替えをしていると、妻が入ってきてパジャマに着替えはじめた。

「すいませんけど私、先に休ませてもらいます」

「何だ? メシは食わんのか?」

「何か食欲なくて・・・」

「食欲の秋だっていうのに」

妻は手を止めて、夫をジッと見た。
夫は、また余計なことを言ってしまったかと、ふと目をそらした。

「ゴハンは用意できてますから。・・・それから、食べ終わったらそのままにしておいてくださいな」

妻は、そう言うと布団に潜り込んでしまった。

「昨日も言ったけど・・・良樹のことなら心配するな」

布団の中からこもった声で妻は言う。

「あなたは心配じゃないんですか? 自分の息子なのに・・・」

「・・・おまえには男兄姉がいないから、ピンと来んかもしれないが・・・。あの年頃の男ってもんは、たいていあんなもんだよ」

「・・・・・」

「隠し事のひとつやふたつ出てくるようになって・・・。自分で責任をとらなきゃならないコトが増えて。それでオトナに近づいていくんだ。それは特別なことじゃない」

「・・・・・」

「それに、自分の息子だから・・・心配いらないって思ってる」

「・・・・・私、なんか寂しい」

「息子ってもんは、いつかは母親から離れていくもんさ。いつまでもくっついていられても困るだろ?」

「それはわかりますけど・・・・やっぱり」

宮田は、妻の布団のふくらみが、かすかに揺れているのに気づいた。

「あなた」

「何だ?」

「せめて夫婦の間だけは、隠しごとのないようにしましょう・・・で、ないと私、本当に寂しくて」

宮田は心臓がえぐり取られるような思いを感じた。

せっかくの休日の夜だというのに・・・。家族も全員、家にいるというのに・・・。
宮田はひとり寂しく、冷めた夕食を・・・暖め直しもせずに食べた。

・・・be continue.

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