THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行4 13/14


■・・・秘密

木下の店を出た宮田は喫茶店に入ると、携帯電話の説明書をくまなく読んだ。

充電キットやら箱やらで、小さなはずの携帯電話は、意外にも紙袋ひとつ分にもなってしまった。
箱などは、もう捨ててしまってもかまわないのだが、充電キットがある。
このまま持って帰ったのでは、いかんせん目立ち過ぎる。
試行錯誤の上、宮田はとりあえず紙袋を駅のコインロッカーに預けて帰ることにした。

宮田の軽やかな足取りも家に近づくにつれ次第に重くなる。
良樹はちゃんと帰っているだろうか?
一歩一歩近づく度に、宮田は父親モード、そして夫モードへと自分を変換していった。

家に入ると、妻はあいかわらず、ダイニングテーブルでボーッとしている。
テーブルの上には、食事が3人分用意されていた。

「良樹は、まだ帰ってないのか?」

宮田の言葉にハッとした妻は

「あ! ゴメンなさい。戻ってらしたの・・・」

と言って立ち上がり、夫の上着をとろうとした。
しかし、宮田は「いや、いい」と言って、もう何百回と繰り返されてきた妻の仕事を止めた。
・・・上着のポケットには、コインロッカーの鍵が入っていた。

再び座り込んだ妻は言った。

「帰ってますよ・・・良樹。でも、すぐに部屋に入っちゃって・・・ゴハンも食べずに」

「何か食べて帰って来たんじゃないのか?」

軽い気持ちで、そう答えた夫の顔を妻は厳しい表情で見上げた。

「そういう問題じゃないでしょう?」

妻は大きくタメ息をつくと、一転して情けない表情になったまま。また止まった。

「・・・・うがいしてくる」

宮田は、そう言って洗面所に向かった。
途中、階段の下から良樹のいる部屋を見上げたが・・・何と言っていいか、皆目わからなかった。
まず、うがいを5回してから・・・それから考えよう。


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