THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行4 12/14


■野望への一歩

正規代理店・・・そう書かれたワゴンの中には、携帯電話がズラーッと並んでいる。

「木下! おまえの店で携帯電話も扱ってるのか?」

思わず、その一台を手にとった宮田は、この時とばかり、それをなでまわしながら言った。

「ああ。今は過当競争だからな、携帯も。人が集まるところなら、どこでも売ってるような時代だろ?」

「ウーム」

宮田は、あいからわず携帯をシゲシゲと見ている。

「宮、お前、携帯持ってないのか?」

「実は・・・持ってないんだ。ほしいなとは思っていたんだが・・・」

「ほれ、じゃこれ」

そう言うと、木下はワゴンの中から一台取り出すと宮田に手渡した。

「・・・これって?」

「やるよ」

「やるって・・・タダというわけにはいかんだろう? タダというわけには」

と言いつつ、宮田は内心、金を払ってでもこの場でぜひほしいと思っていた。

「いゃあ、それは型遅れだし。いいよ、モニターってことで。本体はタダ。その変わり使用契約だけはウチでしてくれよ」

「もちろんだ。・・・すまないなぁ」

100円より安い!・・・宮田は思った。最もここまで来る電車賃は100円以上したが、そんなことは問題ではない。

「じゃあ、申込書書いてくれよ。充電のキットとかも渡さなきゃなんないし・・・」

木下は、そう言うなり、奥に声をかけた。

「安藤ー! ちょっとー!!」

奥から女性が顔を出した。木下の妻ではない。従業員らしい。
・・・待てよ、この顔は・・・!

「今、用紙と充電キット持って来させるから」

木下の声を耳にしながら、宮田は再び店の奥に入って行った女性をジッと見ていた。
間違いない。木下と再会した晩、ホテルのラウンジにあらわれた、あの女だ。


Next■