THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行4 9/14


■良樹の逆襲

普段の休日であれば、午後から大きなスーパーに行って買い物をするところだが、今日は朝から出かけたので、その足でスーパーに寄って、昼食はスーパーのファースドフード・コーナーで済ませて帰ることになった。

途中、スーパーの専門店街でメガネ屋の前を通りかかった時、妻は言った。

「あなた。メガネ作っておかなくていいんですか?」

「そうだなぁ・・・」

『その眼鏡もカッコイイですよ。しよちゃんより・』・・・宮田の脳裏には、今も大切に定期入れの中に忍ばせた三村のメモがよみがえった。

「とりあえず、いいや・・・今日は」

宮田は、さっさとメガネ屋の前を通り過ぎた。

うちに戻ると、郵便受けにハガキが一枚届いている。

見ると、つい先日再会した旧友、木下からのものだった。
あの若い愛人がいる木下だ。

内容は店のオープンの案内状だった。
そういえば、インポートのアンテナショップをはじめるだとか、はじめただとか、この間会った時に話していた気がする。

横文字が多くて、いったい何を扱っている店なのかは、よくわからないハガキだったが、とにかく店の場所と、オープン記念セールが明日の日曜日まであることだけは理解できた。

フーン・・・宮田の感想は、それだけだ。
木下の店に行くとも行かないとも決めぬまま、午後は小さな裏庭の草むしりに没頭した。

日が暮れて、妻が夕飯の支度をはじめた頃、久しぶりに肉体労働をした宮田は早々と風呂を済ませた。

宮田は「そう言えば良樹の帰りが遅い」・・・と妻に言おうとしたが、ちょうど玄関のトビラが開く音がしたので、とりあえず寝室でパジャマを着て来ることにした。

台所に立つ妻は、煮物から目をそらさずに言った。

「良樹? お帰りなさい。ちょうど、よかったわ。これからゴハン・・・」

玄関から大きな足音を立てて一直線に台所に向かってきた良樹は、母親の言葉をさえぎるように怒鳴った。

「どういうことなんだよ?」

「どういうって・・・何が?」

驚いた母親が答える。

「何がじゃねぇよ! 人の部屋、勝手にいじりまわしやがって!!」

良樹のボルテージは、すでにかなりのところまで上がっていた。
寝室から戻った宮田は、2人の険悪なムードを即座に感じたが、何がなんだかわからない。
ただ、草むしりのせいか・・・ちょっと腰が痛い。

「勝手にいじったって、どういうことよ、ね、良樹。わかるように言いなさいよ」

息子につられるかのように母のボルテージを上がってきた。

「携帯、あったんだろ。クミの」

母はややボルテージを下げて言った。

「・・・あったわよ。お部屋掃除してたら・・・落ちてたんだもの。ベッドの下に」

「だったら何で俺に言わねぇんだよ?! 勝手に返しに行くなんて・・・きたねぇよ!!」

宮田は審判のように口をはさんだ。

「良樹! かあさんに汚いとは何だ?!」

「じゃあ、ズルイよ! 黙ってるなんて!!」

良樹は、そう言い放つと2階にある自分の部屋に駆け上がって行ってしまった。
母は呆然と、その場に立ちつくす。

良樹の後を追って階段の下まできた宮田は叫んだ。

「おい、良樹! ゴハンは、どうするんだ?! ゴハンは?!」

「いらない!」

こもった声がピタリと閉められたドアの向こうから聞こえてくる。
仕方なく台所に戻ると、妻はまだ呆然としたままだった。

宮田は何と声をかけていいのかわからなかったが、やがて言った。

「・・・おい。煮物」

煮物は、すっかり煮えたぎっていた。


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