THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行4 8/14


■妻の価値観

「やっぱり、こっちにするわ。壊れてもあきらめつきそうだし・・・」

妻はそう言って携帯電話コーナーのすぐわきにあるレジにトースターを置いた。

「ありがとうございます」

お調子者の店員は、宮田の肩をニヤリとしながら軽く叩いて、レジに入った。
不思議に思った妻は、宮田に尋ねた。

「どうしたの?」

「いやぁ、別に・・・」

店員は宮田が差し出した金を受け取って、終始ニヤニヤしながらレジを打つ。
トースターをそのまま袋に詰めて、妻の方へ差し出すと言った。

「はい、それじゃあ、これはパパから」

「パパ?」

妻は思わず聞き返した。
宮田は妻の後から小声でささやいた。

「キミがあんまり若く見えるもんだからね。愛人じゃないかって・・・この店員」

「愛人?!」

妻はレジの中でニヤニヤしながら見る店員に向かって

「馬鹿にしないでよ!」

と怒鳴りつけた。

「行きましょ」

と吐き捨てるよう言うとトースターの入った袋をひったくり、さっさと出口へ向かって行ってしまった。

あわてて、それを追う宮田。店員は、ただボーゼンとするばかりだ。

妻は車の前に立ち、プリプリしてる。
ドアを開けて車に乗り込んだ宮田は、助手席に腰を下ろした妻に聞いた。

「何をそんなに怒ってるんだ?」

妻は宮田の方を向いて言った。

「当たり前じゃない?! 愛人だなんて。けがらわしい!!」

宮田は咳払いをひとつすると、正面を向いて車を走らせた。


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