THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行4 4/14


■中年男の想い

チラシの電気屋までは、自宅から車なら15分程度の距離だ。

開店までには、まだ余裕がある。
しかし、万が一途中で渋滞にでもハマると困るし、ひょっとすると『先着100名様限り』につられて並んでいる者がいるかもしれない。
予定通り、あれから13分後に家を飛び出した宮田は車を急がせた。

街路樹もすっかり黄色くなっている。
思えば、三村しよりと2人きりでこの車を走らせたのは、ちょうど一週間前のことだった。

楽しかったけど、つらかった思い出。
そして、その頃以来続いているこの思いはいったい何なのだろう・・・。
宮田は、それを自問自答して明確な答えを出すことをためらっていた。
けれども、とにかく携帯電話はあった方がいい・・・それだけ考えていた。

平日と違って今朝は道が空いている。
宮田家の白いマークIIは、10分ほどで電気屋の駐車場に到着した。

開店までには、まだ15分以上ある。
幸い店先に並ぶ者など、ひとりもいない。

普段、会社と自宅をただ往復しているだけの宮田は、今や携帯電話がどこでも安売りされていて、それこそ無料ということも珍しくないという現状を知らなかった。

とにかく、ここまで来ていれば、もう安心だ。
先着100名以内に入ることは疑いようもない。

宮田夫妻は車の中で、しばらく待機することになった。

ようやく落ち着きを取り戻した宮田は、助手席に座る妻の方を見た。
・・・マズイ!! 妻といっしょに来ていたのでは、自分が携帯電話を持っていることを妻に知られてしまうではないか?!
宮田の脳裏に今朝の悪夢がよみがえってくる。
と同時に、とっさにマズイと思う自分にもマズイと感じつつ。

エンジンを切った静かな車内で、妻がつぶやいた。

「・・・あなた」

「ウ、ウン? 何?」

「実は携帯電話・・・」

「ち、違う! 違うんだ!!」

妻は、何かを必死に否定しようとする夫の顔をマジマジと見た。


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