THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行3 7/9


■上り電車での帰宅

横浜を出た宮田は、川崎の自宅まで、電車に乗って帰った。
帰り道だというのに上り電車に乗るのは、ちょっと不思議な感覚だったが、空いているのは悪くない。

電車の車内では、ひたすら携帯電話の中吊り広告に目を奪われる宮田だった。

週のはじめだというのに、やや遅めの帰宅になってしまった。
だが、宮田の妻は結婚してこの方、夫の帰りが遅いことをとがめる女ではなかった。

自宅の玄関先にたどりついた宮田が苦慮していたのは、息子に会ったら何と言おうか・・・その一点のみ。
息子とは、夕べの激論以来、顔を合わせていない。

トビラを開けると、妻が出迎えた。

「おかえりなさい」

「良樹は?」

「実力試験が近いって言って、勉強してますけど」

「・・・そうか」

それなら特に今夜は何も言わない方がいいだろう・・・宮田は内心ホッとして、いつものように洗面所で5回うがいをした。

着替えを済ませて食卓につく。

「珍しいわね、飲んで帰ってくるなんて・・・」

炊事場の方を向いたまま妻が言った。

「ウンちょっとね・・・ああ、食事は軽くていいよ、もう遅いし・・・お茶漬けくらいで」

夫の好きな梅茶漬けを差し出した妻は、お茶をすすりながら、夫が食べ終わるのを待った。
誰が見ているのでもないテレビからは今日のニュースが流れている。

プルルルルッ!! 突如、電話が鳴り響いた。

「誰かしら? こんな時間に・・・」

妻が立ち上がった。
宮田はお茶漬けの中に顔をうずめながら「ひょっとして三村クン?」と根拠のない戸惑いを覚えた。
こんな時に携帯電話があれば・・・・! たとえ自宅にいたとしても留守電機能があることを宮田は木下から聞いていた。

電話を切った妻がテーブルに戻ってきた。

空になった茶碗を置いた宮田は妻の顔を見た。

「誰からだ?」

妻は静かに口を開いた。

「それが・・・携帯電話・・・」

宮田は予想外の妻の言葉に心臓が張り裂けそうになった。


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