THE THEATER OF DIGITAKE 初めての不倫旅行3 5/9 |
■宮田の熱いコーヒー 帰宅する会社員たちを夕立がおそった。 結局、三村とは直接ひと言も話すことができなかった宮田は、何となく重い足取りで駅へ向かっていた。 普通なら駅までダシュしてしまうところだが、今日は途中にある立ち飲みコーヒーの店に一時避難した。 窓際のカウンター席に腰を下ろすと、鞄を頭上にかざした会社員たちが駅へ急ぐ姿がよく見える。 帰り際こそ、三村にひと声かけたかったのだが、夕方になってひっきりなしにかかってきた電話の対応に追われているうちに、すっかり彼女を見失ってしまった。 コーヒーをすすると、ベッコウ眼鏡が湯気で曇った。 取り出したハンカチでレンズをぬぐいながら、宮田は三村とのドライブのこと、そして今日会社で受け取ったメモのことを、また思い返していた。 そうだ・・・ここで張っていれば、三村が通るかもしれない。 そう考えた宮田は、ほのかなトキメキを覚えたが、さて会ったところで何を話していいのやら・・・。 だいたい、こんなところで待ち伏せをしていたのでは、ストーカーと変わらない。 いや待て! ストーカーというのは、たいてい一方的に相手を知っているだけというケースが多いから、お互い知り合っている間柄なら、そうじゃないだろう・・・。 なんせ2人きりでドライブした仲だし・・・。最も行きだけで帰りは別々だったが・・・。 ひとり、コーヒーをすすりながら、そんなことを思いめぐらしていると、見覚えのあるチェック柄の傘をさした女性が店の前を通りかかった。 三村に違いない。宮田は前払いだった、このコーヒー店のシステムに感謝しつつ、さっと店を飛び出した。 いきなり開いたドアの音にチェック柄の傘の女性が振り返った。・・・三村ではなかった。 一瞬、彼女と目が合ってしまった宮田は、そのまま頭上を見上げて、雨の様子をうかがうふりをした。 雨は、やや小降りになっていた。 再び店に戻るのも不自然だし・・・仕方ない、今日はこのまま帰ろうと、宮田が駅に足を向けた時、車道の方から男の呼ぶ声がした。 「宮、宮じゃねぇか?」 黄色いランボルギーニ・カウンタックのガルウィングを小雨の中だというのに惜しげもなく開いたサングラス姿の男が宮田を見ている。 宮田は目を細めたが・・・誰だかわからない。 「俺だよ、俺」 男はサングラスをはずしてながら宮田に近づいてきた。 幼なじみの木下昭夫・・・5〜6年ぶりの再会だった。 「昭夫?! 懐かしいなぁ〜。それにしてもスゴイ車に乗ってるなぁ」 「たいしたコトねぇよ。おまえ、勤めはこの近所なのか?」 「ああ、あのビル」 「ほぉ、エリートじゃん」 「んなこたぁないが・・・。おまえは?」 「いゃあ、オヤジの会社を柱に、ちょっと事業をね。・・・おまえ、まだ川崎か?」 「ああ」 「ちょうどいい、これから横浜まで行くんだけど、ちょっとつき合わないか?」 宮田は、生まれて初めてスーパーカーに乗り込んだ。 |