THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行2 5/8


■マイホーム

帰りの高速は大渋滞だった。
宮田家のマークIIが、自宅のある建売住宅街にようやく戻ってきた頃には、夜9時になろうとしていた。

「ただいまぁ〜」

妻は、そう言いながらテレビの音がするダイニングキッチンに向かったが、息子の姿はない。
テーブルの上に食べ終わったカップラーメンがそのまま置いてあるのに気づくと、ちょっと眉をひそめた。

夫は、どこから帰った時もまず洗面所へ向かい、真っ先に手を洗い、うがいをする。

妻は、その洗面所のわきを通り過ぎると、階段の下から息子の部屋に向かって叫んだ。

「ヨッちゃ〜ん、今、帰ったわよ」

夫は、うがいを続けている。1回あたり10秒。必ず5回うがいをするのが習慣だ。

「ごめんね〜、お腹すかしたでしょう?」

妻は、そう言いながら階段を上がっていく。

うがいが済んだ宮田は、やっと落ち着いた気持ちになると、腹が減っていたことを思い出した。
途中、サービスエリアであんぱんを買ったが、それだけではとうていもたない。
ダイニングキッチンをのぞくと、ようやく妻が息子の部屋へ上がって行ったらしいことに気づいた。

テーブルの上のカップラーメンを見た宮田は、息子に悪いことをした・・・と心底反省していた。
夕べ、妻が宿から泊まることを電話した時には、快く・・・というか仕方なく承諾してくれたようだが、いかんせん帰りが遅くなってしまった。
来年、高校受験をひかえたひとり息子にひもじい思いをさせたとあっては父親として示しがつかない。

ポロシャツのボタンをひとつずつはずし、ベルトをゆるめた宮田は、視線を汁だけが残ったカップラーメンの容器に向けたまま、椅子に腰を下ろした。
どんな顔をして息子に会おう・・・?

と、その時、2階の方から妻の叫ぶ声が聞こえた。

「それと、これとは話が違うでしょ!!」

異変に気づいた宮田は息子の部屋へと急いだ。


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