THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行2 3/8


■今日も助手席へ

「・・・すまんな」

後頭部に氷の入ったビニール袋を当てながら、マークIIの助手席に身を沈ませた宮田は、運転席の妻に向かって言った。

「大丈夫ですか? 高速に入ったら変わってくださいね」

普段、近所の買い物程度にしか車を走らせたことのない妻の運転は・・・それでもなかなかのモノだった。

「うん・・・もう、だいぶ回復してきたから・・・。高速の入口までは、一本道だから迷うこともないだろ」

そう言いながら、窓の外に流れてゆくの秋の山々に目をやる・・・今日もイイ天気だ。
昨日も同じところを通ったはずだが、宮田にはすごく新鮮に見える。
そりゃあ昨日、この辺りを走っている時には、景色はおろか運転席に座る三村の表情さえ、見えなかったのだから・・・。

あの時、三村はいったい、どんな表情でこの山道を走っていたのだろう?
そんな思いをめぐらせていると、運転席の妻の姿に三村の姿がオーバーラップしてくるようだった。

昨日の三村は、普段、会社には着てくることのない、若めの服装をしていた。
もちろん若いのだから、若めの服装をしていても何の不思議はないのだが、逆に会社にはちょっと大人びた・・というか落ち着いた感じの服装を心がけているのかもしれない。
いったいどっちが本当の三村なんだろう・・・?

「アラ」

運転席の妻が急にそう言って、ハンドルを右にきった。
ひとり思いにふけっていた宮田は大きく体をゆすられて現実に引き戻された。

「どうしたんだ、いったい?」

妻が車のエンジンを切ると、あたりに小鳥の声がしているのがわかった。
おもむろに車を降りた妻は、あたりの景色をあおぎ見ると、大きく伸びをする。

宮田は頭に当てていた氷がすっかり溶けてしまったことを確認すると、ドアを空け、ビニール袋の中にたまった水をあたりにまいた。

静かに顔を上げて妻の方を見ると、そこは深く覆いしげった緑が開けて、はるか彼方の山々が見渡せる・・・見覚えのある場所だ。

「あなたも降りてみなさいよ。いい景色ですよ、ここ。・・・まるで雲の上にいるみたい」

そして聞き覚えのあるセリフを今度は妻が言った。


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