THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行 6/9


■犯行未遂

「課長、着きました」

コーちゃんとしよちゃんは、すっかり陰をひそめてしまった。

「うん」

宮田は、次の言葉を探していた。

「この宿で・・・お休みになりますか?」

三村のその言葉に、宮田は一瞬コーちゃんが戻ってきたような気がしたが、宿の玄関も見えない状態では、なす術もない。

「そうだな。とりあえず、宿で休んで・・・予備の眼鏡を何とかしないと」

「ご自宅にはあるんですか? 予備の眼鏡?」

「ある。女房に言えば・・・場所はわかるはずだ」

何気なくそう言った宮田は内心「しまった!」と思った。
妻に頼まない限り、予備の眼鏡は用意できない。
このまま三村に車を運転してもらって帰るという手もあるが、一泊二日の研修旅行と言ってきているからには何とも不自然だ。
第一、眼鏡なしで、どうやって運転して帰ってきたのか・・・問われたら答えようがない。

「・・・君は、どうするね?」

宮田は念のため三村に尋ねた。

「温泉か・・・悪くないですね」

宮田は懸命に彼女の表情をうかがおうとしたが・・・まったく見えない。

「でも、課長さんと2人で温泉宿なんかに入ったら・・・何か不倫してるみたいですね」

「はっ・はっ・はっ」

宮田は力なく笑った。
夕暮れのカラスの声が、そこにオーバーラップしてきた。

「私、そこの駅から帰ります」

「何だか、すまなかったね」

「いいえ、こちらこそ。・・・楽しかったです、ホントに。ありかどうございました。何だか元気になれたような気がします」

「それは、よかった・・・月曜日から、またシッカリやってもらえるかな?」

「はい」

元気よく答える三村の声に「これで目的は果たせた」と宮田は自分に言い聞かせた。


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