THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行 3/9


"ダンドリー宮田"

それから土曜日までの間、宮田はろくに仕事が手に着かなかった。

車の車検、保険関係の確認はOK。
給油と洗車は、前日の夜、24時間営業のスタンドに行けばいい。
行き先については、購入した3冊のガイドマップであらかた見当はつけた。
集合場所については彼女の自宅の最寄りの駅前だと、高速に乗るのに都合がいい。
カメラは・・・あえて持って行かない方が賢明かもしれない。
服装は、ゴルフのコンペの時にもらったポロシャツで、まだ着たことがないのがあったはずだ。
ポロシャツの色は今夜、確認しよう。

問題は・・・。
妻に何と言って外出するか?
それから、念のため、宿の予約をしておいた方がいいかどうか・・・だ。

妻への言い訳は、とっさに口にしてしまった。
ポロシャツの色を確認していた時に

「どちらか行かれるんですか?」

と聞かれて、思わず

「うん、実は今度の土日に社の研修旅行があってね」

と言ってしまったのだ。

別にウソをつくことはなかったのだが、心のスミにやましいところがあったコトは否定できない。

しかし、考えようによっては、確かに課の仕事を円滑に進めるための研修旅行的な意味合いもないではないし、2人きりで行くことをあえて言わなかっただけで、隠してはいないワケだから、ウソをついたとも言えない・・・宮田はそう自己を肯定した。

残るは宿の問題。
ストレス解消という目的のために温泉に入るということに不自然さはない。
だから一応、予約をしておくべきだ・・・と宮田は判断した。

その先、一泊するかどうかは三村次第で何とも言えないが、万が一、そうなっても大丈夫なようにしておいた方が選択の幅は広がる。

"ダンドリー宮田"の血が燃えた・・・だが、まだ正直言って踏み切れないモノが残っているのも事実だ。

秋の行楽シーズン。
いくら段取りをしておこうと思ったところで、土日の予約がすんなりと取れるとも思えない。

最後は、予約の電話を入れてみて、ダメだったら仕方ない・・・そう考えた宮田は、昼食に出た折り、公衆電話から目当ての宿に電話を入れてみた。

宿の番頭は言った。

「お客さん、運がいいですわ。普段ならいっぱいのところですが、たった今、2名のキャンセルが入ったところで・・・」

宮田の銀ブチ眼鏡がキラリと光った。
サイはふられてしまった。


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