THE THEATER OF DIGITAKE
車掌熱唱 6/8


■どんでん返し

気配を感じた田所が振り返ると大男は眉間のシワを深くして怒鳴りつけた。

「テメェ、いったい何してやがるんでぇ!」

その声に驚いた田所は、すぐ後ろにあったドアに背中をぶつけながら、ゆがんだ帽子を直して必至で答えた。

「・・・だから今、グリーン券をお持ちでないお客さまに、席を立っていただくよう、お願いしているところじゃないですかぁ」

大男の眉間のシワは深くなるばかりだ。

「こんな年寄り立たせやがって、何考えてるんだよ!!」

「はぁ?」

田所はア然とした。

「しかも足が不自由な年寄りをよぉ・・・。さぁジイさん、座んなさい」

ヒゲの老人は「すまんな」と言って、再び腰を下ろした。
隣にいる年老いた妻も「ありがとうございます」と大男に頭を下げた。

田所は、今まで悩んでいた自分が妙に滑稽に思えてきた。
・・・しかし、よかった。
気を取り直した田所は、

「ご協力ありがとうございます」

と大男に礼を言うと、首にかけた端末を使って、手際よく老夫婦にグリーン券を発行した。

すべては、うまくまとまった・・・ように思えた。
だが、それだけでは済まなかった。

老夫婦にグリーン料金のおつりを渡した田所が振り返ると、大男は言った。

「・・・よし。それで? オレたちの席はどうなるんだ?! え?」

田所の額に、またしても汗がにじみ出てきた。


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