THE THEATER OF DIGITAKE


車掌熱唱 田所車掌■大地康雄
ヤクザ風の男■安岡力也
その女■
神田うの

老人■
鈴木清順
その妻■
左 幸子

若者■劇団ひまわり

以上、作者による勝手な配役


■18時14分発

電車は東京駅から南に向かって走りだした。
今日も家路を急ぐ疲れきった人々を乗せて・・・。

「只今の時間帯、グリーン車はあらかじめグリーン券をお持ちの方で満員となることが予想されます。グリーン券をお持ちの方がお立ちの場合には、お持ちでない方と座席をかわっていただく場合がございますので、あらかじめご了承ください」

いつものように、そうアナウンスを入れた車掌の田所は、マイクのスイッチを切ると、乗務員室の座席にドカッと腰を下ろし、背中をさすった。

昨日の休日は母親の七回忌だった。

妻を亡くしてからというもの、すっかり老け込んでしまった父親は、元来の無精な性格も手伝って、家から出ることは少ない。
普通に生活できていれば、まだまだ足腰も丈夫でいられたはずなのに、今や歩くことすらままならない状態だ。

法事を行った寺の階段は97段。
そこを父親をおぶって上り下りすることは、いかに普段立ち仕事が多い田所にとっても少々キツかった。

しかし何よりもキツかったのは、法事の後の食事会。
田所はビール1杯で真っ赤になってしまうが、親戚やイトコには酒好きが多い。
こういう集まりは決まって大宴会になってしまう。

まして最近は、田所のイトコたちも、いわゆるオジさんになっいる。もちろん田所自身もオジさんに違いないが。
オジさんたちは、会社の若い者とは話が合わないと見え、こうして気の合う年代が集まることのできる時になるとハメをはずして飲みまくる。
酒が弱い田所は、他人がいくら飲もうと少しも気にはならないのだが・・・。

カラオケ。
これが始まると、もう恐怖すら感じてしまう。
田所は人前で歌を歌うのが大の苦手であった。
酒グセの悪い連中は、田所にもマイクを押しつけてくる。
自分たちで勝手に歌っていればいいのに・・・。人に歌わせないと自分の順番がなかなかまわって来ないと思っている。

だったら何もカラオケ装置のあるところで食事をする必要はないのだが・・・。
3回忌の時にカラオケのない場所でやったらイトコたちから、ものすごい避難をあびて、あげくカラオケボックスに深夜まで付き合わされてしまった。

だったら終わりの時間が決まっている食事の席で解放された方が、いくらかマシだ。
そういうわけで、昨日は苦手な歌を歌わされ、田所はホトホト疲れきっていた。

「オレも歳かな」そう思いながら、座った状態で伸びをしてみる。
次の駅を通過したら、検札にまわらなければならない。
田所にとって、それまでのわずかな時間が戦士の休息であった。


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