THE THEATER OF DIGITAKE
美穂のアルバイト日記 5/6


■ミッキーの救い

レジの上にはミッキーマウスの風船が、ユラユラと揺れている。
その時の私には、ミッキーの表情が何とも脳テンキに思えたが、おかげでひとつのエピソードを思い出した。

ウォルト・ディズニーは建設中のディズニーランドを視察する時、要所要所でしゃがんでまわりを見渡し、子供たちの視線から、どう見えるのかを確認したという。

これだ! 私にだって初めて買い物をした時の経験はある。
あの時は確か自分のものじゃなくて、食パンか何かを買いに行かされたと思う。
ドキドキしながら買い物をして帰ると、おかあさんがオツリをお小遣いだと言ってくれた。
それが、すごく嬉しかった。

私はレジのわきで腰をかがめて、できればオバさんから見えないように、男の子に話かけた。

「ボク、エライ子だから、お姉さんがお小遣いあげるわ」

男の子はキョトンとした顔をしながら、私から100円玉をひとつ受け取った。

再びレジに立った私は少し大きな声で言った。

「税込みで2,100円になります」

男の子はあいかわらずキョトンとしたままだったが、私が両手のお金を受け取って、商品を渡すと喜んでレジを後にした。

私も何だか嬉しくなった。
ここでバイトして初めて感じた喜びだった


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