THE THEATER OF DIGITAKE
美穂のアルバイト日記 4/6


■絶対絶命

どうしよう?・・・私は悩んだ。

店長に相談すれば「お金が足りないなら売ることないでしょ」と言われるに決まっている。
この子に消費税の説明をするのも難しい。「だって2,000円って書いてあるじゃないか!」と言いながら泣き出されるのがオチだ。・・・こんなことで子供をキズつけたくはない。

いっそ100円くらい私が立て替えてしまえばいいか・・・と思ったところへガラガラとカートの音が近づいて来る。
カートには特大のクマのぬいぐるみが鎮座していた。
そのクマのわきから顔をのぞかせたのは・・・さっきのうるさいオバさんだ。

もう、ちゅうちょしているヒマはない。
この子が差し出す2,000円で商品を売ってしまおう・・・としたその時、オバさんの声がした。

「アラ、このお店。消費税はとらないのかしら」

ヤバイ! どうして、そんなことに気づくのよ、このオバさん。
ここで、この子に税抜きで売ってしまったら、オバさんの分も税抜きにしないワケにはいかない。

あの特大のクマのぬいぐるみは確か8万円くらいするヤツじゃないの?! ほとんどディスプレイ用だと思ってたのに、まさか本当に買う人がいるとは・・・。
消費税だけで4,000円じゃない! 冗談じゃないわ。まして、こんなオバさんのために・・・!

そうこうしているうちに、オバさんとその孫は、男の子の後にピッタリと貼り付いた。
あたりには、あいかわらず忙しそうなフリのバイト仲間が行ったり来たりしている。もちろん、こんな相談できるはずもない。

一番キツかったのは、この男の子だ。

「ねぇ、早く売ってちょうだい。うちに帰って遊ぶんだから!」

まったく・・・人の気も知らないで。


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