THE THEATER OF DIGITAKE
美穂のアルバイト日記 3/6


■かたくなな客

宅八郎に悩まされていた1番レジの店員が、ようやくお弁当を食べに行けたので、私は2番レジを閉めて、そのまま1番レジに入った。

さっきの混雑がウソのように静まり返っている。
聞こえてくるのは、もう耳にタコができるほど聞いた、お店のテーマソングだけだ。

その沈黙をやぶったのは、小さな男の子の声だった。

「これください」

背伸びをして、ようやくレジのテーブルに商品の箱を乗せた男の子は、4〜5歳くらい。
まわりに大人の姿はない。
やや緊張した表情で私を見る男の子は、きっと初めてのお買い物だろう。

私は、その緊張を少しでも和らげてあげようと思って声をかけてみた。

「ボウヤ、ひとり?」

「うん」

いけない。かえって緊張を増幅してしまったようだ。
子供は敏感だ。少なくともこの子からは大人に見えるはずの私が、こんなことを言ったら「子供だけでお金払えるの?」というニュアンスにとってしまうかもしれない。

「エライわねぇ、ひとりでお買い物できるなんて」

「うん、お小遣いをね、ためて来たの」

やっぱり、お金のことを突っ込まれまいと防御してるみたい。

「エライ、エライ。2,000円も貯めたんだ?」

商品の箱を見て、私は言った。

「うん、ちょうど2,000円貯まったから買いに来たの」

私はレジを打った。レジには税込み2,100円と表示された。

「はい! 2,000円」

レジの音を聞いた男の子は、クシャクシャの千円札を2枚突き出した。

「・・・あの、ボク? お金、持ってるの、これだけ?」

私は極力、優しく尋ねたつもりだ。

「だって、2,000円でしょ。はい! 2,000円」

彼は純真で・・・そして、かたくなだった。


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