THE THEATER OF DIGITAKE オヤジの宝箱 5/5 |
■オヤジの宝箱 食卓がかたづくと、良郎は、さっき見つけた箱を取り出して母に見せた。 「こんなものがあったよ。・・・考えてみるとオヤジは、あれだけ写真を撮りまくってたけど、みんな人にあげちゃうもんだから、ウチに写真は残ってないと思ってたけど・・・こんなことろに1枚あったよ」 写真には、3歳くらいの子供が映っている。 破れたフスマの向こうから無邪気に顔をのぞかせている子供の写真だ。 「あんれぇ、懐かしいな」 お茶を入れかかった母は、その手を止めて、しばし写真に見入った。 「この新聞は何だろう?」 良郎は、取り出した黄ばんだ地方紙を破れないように注意して広げてみた。 そこには、箱に入ったのと同じ写真が掲載されていた。 「入選・・・? へぇ〜、オヤジって写真が好きなだけじゃなく、ちゃんと腕もあったんだぁ・・・」 「最も、それ一度きりだったけんども・・・。最初に撮った1枚が、新聞で賞なんかもらったモンだから、道楽に拍車がかかってしまったねぇ」 「でも・・・いい写真だな、確かに」 モノクロでプリントされたその写真は、ピントこそ甘かったものの、いたずら坊主の雰囲気が実に生き生きと伝わってくる。 写真を見る誰もが、やさしさを感じる1枚。 それはファインダーをのぞくカメラマンのやさしい気持ちも伝えていた。 「・・・この子は、どこの子だろう?」 良郎の言葉にようやく写真から顔を上げた母は、良郎の顔を見て言った。 「何言うてる。・・・これは、おまえだ」 良郎は、言葉を失った。 そして、いつしか目の前の写真が涙でにじんで見えなくなった。 一週間後、良郎は実家のかたづけを終えて東京に戻った。 良郎のバックには、父が愛用していたカメラが詰め込まれていた。 その古びたカメラを直すには、部品を探すだけでも、およそ3ヶ月。 さらに分解清掃をして、実動できるように仕上げるまでには丸2週間を必要とした。 良郎が、妻を強引に説得して退職金をはたき、妻と2人で日本縦断の撮影旅行に出たのは、北海道から戻って3ヶ月半後のことだった。 |
end.
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