THE THEATER OF DIGITAKE
オヤジの宝箱 4/5


■母との対話

良郎は、まず父が窓に打ち付けた板をはがすことから始めた。

釘はすっかり錆び付いて、釘抜きなど役に立たない状態になっていたが、板も腐りかけていたので、容易にはがすことができた。
あの親切な大工がつけた窓が、ほぼ半世紀ぶりに窓として復活した。

陽の光の中で見る室内は、とても新鮮な光景に思えた。

本棚のカゲにキズだらけの三脚が立てかけてある。
三脚を手にとった良郎は、それが意外と軽いことに驚いた。

部屋に差し込んでいた陽は、次第に赤みをおびて来た。
ホコリよけに口に手ぬぐいをあてた良郎が、その箱を見つけた時、母の声がした。

「良郎、ゴハンできたでな。今日はそのへんにしとけや」

「ああ」と返事をしながら、良郎は、その箱を開いた。
中には、丁寧に油紙に包まれた1枚の写真と黄ばんだ新聞紙が入っていた。
良郎は再びフタを閉じて、その箱を抱え込むと母の待つ居間へ向かった。

母の作るみそ汁の味は変わっていなかった。
この家では何年かに一度しか使われない良郎の箸もそのままだ。

「そもそもオヤジがカメラに凝ったのは何故なんだろう?」

ひさしぶりにテレビを付けずに食事をしている母は答えた。

「喜一の戦死の通知を受けた時にな。戻ってきたのは板きれの入った骨壺ひとつ。お父さんは、せめて写真の1枚でも撮っておけば良かったって、ずい分悔やんでいたわ」

「オレも喜一兄さんの記憶っていうのは、本当におぼろげしか残ってないからなぁ」

「あれは・・・確か、お父さんが郵便局で勤続20年表彰された時だったか、特別賞与をもろうて、うちに戻った時には、封筒の中味は空で、代わりに大事そうに抱えてきたのが、カメラだったんよ」

「へぇ〜、それはオレも初めて聞いたよ」

「おまえが東京に出てからも撮り続けてたからねぇ。村ん衆がカメラを持つようになると、人さまを撮ることはなくなってぇ・・・雪の結晶を撮るなんて頑張ったモンだから肺炎こじらせるハメんなってぇ・・・」

「あのオヤジが、よくオレを東京に出してくれたと、今でも思うよ」

「そりゃあ、あんたがカメラん会社へ就職したからっしょ」

「そうだな、別な就職先だったら猛反対をくらってたかもしれないな。・・・最も今じゃカメラメーカーじゃなくて、いつの間にかコンピューターメーカー・・・。カメラ志向の人間は会社には、もういらなくなっちゃったけど・・・な」

憂いを見せる息子の顔が、いつか見た夫の表情に似ていると、母は思った。

「よく我慢できたな、オフクロ」

「我慢も何も4人も子供抱えて、あん人についていくより生活の道はなかったっしょ。・・・それに」

良郎は母の言葉に聞き入った。

「村中、みんなに喜ばれてたからねぇ、お父さんは・・・」

母の言葉には確かに誇りが感じられた。


Next■