THE THEATER OF DIGITAKE
オヤジの宝箱 2/5


■郷愁の家

良郎の出身は北海道の片田舎だ。

兄弟は兄2人に姉1人、妹1人の5人。
一番上の兄は戦死したので、北海道に残っているのは、すぐ上の兄と函館に嫁入りした姉の2人だけ。
良郎は東京暮らしで、妹はダンナの転勤で今、福岡に住んでいる。

すぐ上の兄は、就職と同時に札幌に出たままなので、函館から車で1時間ほど行った村にある実家は、父亡き後、母親がひとり暮らし。
時々、函館から末娘が様子を見に来る程度だ。

空港からバスを乗り継いで実家の近くまでたどり着いた良郎は、あたりの風景が昔とまったく変わっていないのに驚きと郷愁を覚えた。
まるで、その村だけが時代にとり残されて、まったく別の時間の中にいるようだ。

あいかわらず開けるのにコツがいる玄関の戸を開くと、腰の曲がった良郎の母親が笑顔で出迎えた。
その母の姿を見ると、やはり確実にここでも時間が経過しているということを良郎は感じずにはいられなかった。

居間でひと息ついた良郎は、早速、母親に尋ねた。

「オヤジのモノは、あのままなのかい?」

「そうなんよ。別にワタシひとりでこの家にいるものだから、無理に処分せんでも邪魔にはならんし・・・。それにお父さんのモノはワタシが見てもようわからん・・・。兄弟ん中でもお父さんのモノは、おまえが一番よう知っておるだろう思って・・・。来てくれてほんに助かったわ」

居間を立って、平屋建ての一番端に増築された父の部屋に入った良郎は、まったく変わらないその部屋の臭いを感じた。

この部屋には窓がない。
この部屋を増築したのは良郎が、まだ小学校に上がる前のこと。

親切な村の大工が風通しにと付けた窓は、父親が「注文と違う」と激怒して、自分で板を打ち付けてしまったのを良郎は、しっかり覚えている。

この部屋にしみついた、すっぱい臭いは現像液によるものだ。

赤い電球の球は、すっかりホコリをかぶっていて、机の上の印画紙用のカッターの刃にはさすがに錆が浮いていた。


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