THE THEATER OF DIGITAKE
彼女のハンカチ 2/4


■ソフトクリーム

それにしても暑い。
ただ座っているだけだっていうのに、汗がダラダラと噴き出してくる。
どっか喫茶店にでも入った方がいいな・・・。
近くに、せめてマクドナルドかドトールコーヒーはないか?
たかがアイスコーヒー1杯に300円も400円もとられて平然としていられるほど豊かでもないし、ファーストフードくらいなら、彼女におごってやってもいい。

「暑いね・・・」

ボクは、場所の移動を提案すべく、ミウラ ヨリコに話しかけた。

「うん、暑いね。・・・アイスクリーム食べたいな」

とミウラ ヨリコは言った。
これは、ますますファーストフードじゃないとマズイぞ・・・とボクは思った。
こんな展開になるんだったら、もう少し金を持って来るんだった。2,000円じゃあなぁ。せめて3,000円くらい・・・、いや待てよ、ここに来るのに電車やバスに乗ったから、もう2,000円はとうに切ってるな。

そこに幸か不幸かアイスクリーム屋の屋台が近づいて来た。
ニコリとしたミウラ ヨリコは「ワタシ買ってくる」と言って立ち上がろうとした。
「じゃあコレで」とボクがクシャクシャの1,000円札を出した時には、もう彼女は元気良く屋台の方へ走っていた。

ミウラ ヨリコがアイスを2つ持って戻ってきたら、やっぱり金は出すべきだろうな。
ここは、アイスくらいおごらないと・・・。

最も今日ここへ来ることになった経緯から言えば、別にワリカンでもいい・・・とは思う。

「山下公園を歩いてみたいんだけど、ヘンな男に声かけられるとイヤだから、いっしょに行かない?」

そう声をかけて来たのは隣のクラスのオサナイ キミコとミウラ ヨリコの方だ。
それをあっさりとOKしたボクの悪友タナカは、前日になって行けなくなったというし、オサナイ キミコもドタキャン。

結構、仕組まれてたのかもしれないなぁ、あらためて考えてみると。
最もどうせボクもヒマではあったし、こうしてデートめいたモノをするのも初めてだから、勉強のつもりでつき合ってやってもいい。今日一日くらいは。

だけど、タナカのヤツが金なら何とかなるって言うから・・・。

それに、この暑さだけは勘弁だ。

ミウラ ヨリコは小さなポシェットからサイフを取り出して、屋台のおじさんにお金を払っている。
クルッとこちらを振り向くと、両手にはソフトクリームがあった。

ソフトかよ、ヤベェ・・・やっぱり便所から出るときに手を洗っておくべきだった。
ボクの手は見た目には、まったく汚れていなかったが、とっさにさっきの公衆便所の汚さを思い出すと、とても素手で何かを食べる気はなれなくなった。

フト、視線をベンチの下に向けると、そこには誰かが吐き捨てたタンがベットリと付いていて、ますますあの公衆便所の様子を思い起こさせた。


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