THE THEATER OF DIGITAKE ハルヲの決心 5/5 |
■ハルヲの失敗 男はアロハシャツにサングラス。見るからに、ちょっとヤバそうな感じではあった。 こんなヤツなら、仮にエイズになったって構わない。ハルヲはとっさに、そう感じた。 こういう男には、ヘタに「日本大使館の方から」なんて言わない方がいい。かえって警戒される。 男に近づいたハルヲは、こう言って男の足を止めた。 「おにいさん、実はいいクスリがあるんですけどね」 サングラスの奥からジッとハルヲを見た男は、吐き捨てるように言った。 「何だオマエ? 日本人か? ・・・オレはヤクはやらんぜ」 「いや、ヤバイもんじゃないっす。女はお好きで?」 「きらいな男がいるかよ」 男の顔がちょっとゆるんだ。 「エイズの予防薬なんで・・・」 「ほぉ〜、いくらだ?」 「一週間効くヤツが1本5万・・・」 「5万だとぉ?!」 「・・・のところを4万・・・いや3万で・・・」 男のニラミに押されぎみのハルヲだったが、意を決してこう言った。 「3万で安心して遊べると思えば安いモンでしょ」 「よし、やってもらおうか」 シメタ・・・と思ったハルヲは、そそくさと男をトイレに連れ込むと、注射器を取り出した。 ビタミン剤を注入し、ピュッと2〜3滴、針の先から出す。 ここまでは、昔とった何とやらで実に手慣れたもの。 さて、いざ男のアロハの袖を少し上げると、そこにはクッキリとイレズミが見えた。 ハルヲはドキッとした。こんなイレズミ、ヤクザ映画でしか見たことはない。 しばらく、そのままハルヲがちゅうちょしていると、鏡の方を向いていた男は、サッとハルヲをにらんだ。 「オイ! 本当に効くんだろうな!!」 「ハ、ハイ!」 ハルヲの声がうわずる。 「本当に効くんだったら、テメェもいっしょに打ってみな」 「し、しかし・・・高価なクスリですから」 「じゃあ、最初の金額通り6万払ってやる。そのかわり女のところにも付き合うんだぜ。いいな!」 ハルヲの所持金は、1円残らず売春宿に消えた。 確かに美人は多かったが、以前聞いた話とは違い、女の料金はメチャクチャ高かった。 所持金が底を尽きて、売春宿を放り出された時、ハルヲはその売春宿の元締めが、あの男の情婦であることをようやく悟った。
文無しとなったハルヲは、再び空港のロビーで日本人客に話しかける。 |
end.
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