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◇見せ物小屋(死) 「親の因果が子に報い、生まれてきたのがこの子でござい・・・」 小屋の中から、この声を聞く少女の思いは、いつもと違っていた。 何とかして、この小屋を抜け出して、男と約束した場所へ行きたい。 しかし、オイルまみれのこんな格好で、あの人に会いたくはない・・・。 うつろな瞳で控えの間から外が見える小窓に目をやっていた少女の顔つきがサッと変わった。 その視線の先には数人の友達といっしょに小屋に向かって歩いてくる、あの若い男がいる。 客席は、彼らが入ってきたところで、ちょうどいっぱいになる。 そうしたら、いつものように大蛇といっしょに自分は舞台に上がっていかなければならない。 少女の額からにじみ出た汗が、肌に塗られたオイルの上をすべって、ポトリと床に落ちた。 若い男は「見せ物小屋など悪趣味だ」と内心思っていた。 けれども少女は来ないし、悪友たちの誘いを断れば、また弱虫扱いされるのがオチだ。 板貼りの客席の一番端に腰を下ろした男は、ただぼんやりと正面にあるシミだらけの幕に目をやった。 片目の主人は満席になったことを確認すると、呼び込み台を降りて舞台の前に立った。 「さぁて、お立ち会い! 今宵、皆さまのお目にかかるのは、世にも不思議なヘビ女・・・」 カーテンの奥から、鶏が騒ぐ音がする。息をのんだ観客たちの目が幕にくぎ付けになる。 「どうぞ、ごらんあれ!!」 シミだらけの幕がイッキに開く。 と、そこには上半身をすっかり大蛇に飲み込まれた少女の姿。 ピンと硬直した両足の指の先が、かすかにけいれんしているのが、その場にいる誰の目にも明らかだった。 |