第5回祭りの夜 4/7

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◇境内(三)

「そのまま逃げちゃえばいいのに」

ボーイフレンドを待っていることも忘れて髭の老人の話に聞き入っていた少女は言った。
老人は、ゆっくり少女の方を見ながら答えた。

「逃げたところでなぁ、また誰かにとっ捕まって売られちまうのがオチさ。それなら、そのままでいる方が、まだ幾分マシじゃ・・・。それに、ひとりで出歩くのは何年ぶりのことじゃから、もうそれだけで胸がいっぱいだったじゃろうて」

「・・・それで、どうしたの?」

「恋をするんじゃ」

「恋? 誰と?」

「その時、出会ったやぐらを組みに来ていた青年団の若い男とな」

「ずい分、簡単に恋しちゃうのね?」

「それが恋だったか、どうかは、おそらく本人は気づいておらんかったじゃろう。何せ初めての経験だからの。・・・初めてで・・・最後の」

その言葉に少女は、思わず身を乗り出した。


◇見せ物小屋(三)

昼間出逢った若い男に、生まれて初めてほのかな恋心を感じた少女は、主人との約束通り、夕暮れには小屋に戻った。

彼女にはもうひとつ約束があった。
それは夕食後、境内の隅でもう一度、あの若い男と会う約束だった。

少女が小屋に戻ったことを知った片目の主人はホッと胸をなでおろして言った。

「住職の骨折りでな、柱が手配できた。今夜から小屋を開くぞ、用意しておけ」

少女に絶望感が襲った。しかし、主人の言葉はつねに絶対である。
仕方なく、少女は着物をしまい込んだ。

その晩、神社の境内は浴衣姿の大勢の人手でにぎわった。
綿飴をほおばる子供たちや、ふるまい酒に真っ赤になった顔を賢明にウチワであおぐ男たち・・・。

昼間出逢った少女との約束の時間に境内の隅にやってきた若い男は、そんな様子を多くから眺めながら、もの思いにふけっていた。

男は、どちらかと言うと奥手な方で、今まで自分から女性に声をかけたことなどなかった。
そんな彼が初めて女性とした約束・・・。でも、ひょっとしたら自分はからかわれているだけじゃないのか? そんな思いもないではなかった。

約束の時間を過ぎても少女は一向に現れない。
やっぱり、からかわれただけか・・・男が、そう思っているところへ2〜3人の悪友たちがやってきて、男に言った。

「なんだい、こんな隅っこでシケたツラしてよ。オレたちといっしょに行こうぜ。そうだ、あれがおもしろそうだ」

悪友の一人がそう言って指さした先には、少女の見せ物小屋があった。

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