◇境内(二)
「ちょうど、お嬢ちゃんくらいの年だったじゃろう」
懐中電灯を降ろしながら髭の老人がつぶやいた。
少女はちょっと強がって見せた。
「やだぁ、そんなバイト。気持ち悪いし・・・」
老人の視線は、あいかわらず見せ物小屋のあった空き地を向いている。
「バイトなんかじゃあない。生きるために仕方なくやっておったことじゃよ」
生きるとか、生活のためとか言われると、ちょっとさめた感じになる少女だったが、あいかわらずボーイフレンドは現れないし、もうしばらく、この髭の老人の話につき合うことにした。
◇見せ物小屋(二)
ヘビ女となった少女に楽しみなどあろうはずがない。
小屋の仲間は、主人である呼び込み役の片目の男と金計算をしている男の女房。彼女は、この小屋の元ヘビ女で、少女の教育係でもあった。それに大蛇の飼育係をしているオシの男がいた。
旅から旅へと渡り歩いているために友達もできない。
人が集まることろなら、盆踊りに限らずどこへでも行く。
真冬の興行は、水着姿の少女にとってとくにつらいものだった。
移動と興行の繰り返しで休みなどなかったが、その年、この神社の境内に小屋を建てた晩に台風がおきて、小屋を支えている大きな柱が折れてしまった。
普通なら全員総出で急いで修繕をするところだが、最寄りの材木屋が早めの盆休みをとっていたため、肝心の柱の手配がつかず、その日は久しぶりの休みとなった。
小屋に来てからしばらくは、逃げ出されるのを恐れて少女に外出許可を出さなかった主人だが、普段の少女の働きに免じ、初めて外出を許した。
産みの親が「せめて」という思いで持たせてくれた着物を身につけ、少女は久しぶりに普通の少女となって町に出かけて行った。
その後ろ姿を沈むようなまなざして大蛇がシッと見つめていた。
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